2024年度の介護報酬改定では、前回の改定から運用が始まった科学的介護情報システム(LIFE)に関連する加算について、情報入力負荷が大きいとの声を受け、加算ごとに重複している入力項目や異なるデータ提出時期の統一が実施されました。これに伴いシステムそのものの改修が行われ、8月1日から新規システムの運用が開始されました。
7月末日までは利用者情報とADL維持等情報しか提出できず、8月の新システム運用開始と同時に4月以降入力できなかった加算関連情報は10月10日までの「遡り入力期間」に様式情報を提出することになっています。
また、LIFE関連加算に関する今回の改定では、フィードバック情報について、より詳細な層別化、複数の項目をクロス集計することなどの見直しが行われ、間もなく新たなフィードバック情報も提供される見込みです。
さて、このLIFE関連加算は、診療報酬、介護報酬を通じても事実上初となるアウトカム評価です。少子高齢化による国の財源不足が確実視される中では、おそらくこの方向性は今後さらに強化されると見込まれます。
そこで重要となってくるのが、「ケアマネジメントサイクル」の考え方です。そこで今回は改めて「ケアマネジメントサイクルとは何か?」とこれに関する関連データを紹介したいと思います。
介護版のPDCAサイクルとも言える「ケアマネジメントサイクル」
ケアマネジメントサイクルとは、介護サービスを受ける人の生活状況や健康状態を十分に把握し、その人に合った各種介護サービスを組み合わせたケアプランをケアマネジャーが作成し、介護事業者側はそれに基づく介護計画を策定、これを実施しながら利用者の状態や環境を評価し、適切にケアプランや介護計画の見直しを続けていくことを指します。要は介護版のPDCAサイクルと言ったほうがわかりやすいかもしれません。
「そんなことは当たり前だ」と言う方もいると思います。ただ、介護DX事業を行う株式会社ヘルステクノロジーが今年2月に行った「介護業務の実務に関する実態調査」(回答者:介護施設勤務スタッフ501人)では、これが実はそう簡単ではない実態があることも浮き彫りになっています。
同調査で「介護現場でケアマネジメントサイクルを回しながら効果的に働くことは重要だと思いますか」と尋ねた結果では、「非常にそう思う」が35.7%、「ややそう思う」が51.3%、「あまりそう思わない」が8.4%、「全くそう思わない」が1.0%でした。90%弱がケアマネジメントサイクルの重要性を理解しています。
しかしながら、「あなたの介護現場では、ケアマネジメントサイクルを回しながら効果的に働けていると思いますか」との設問に対しては、「非常にそう思う」が7.2%、「ややそう思う」が36.9%、「あまりそう思わない」が39.1%、「全くそう思わない」が11.4%と「そう思わない」系が半数超という極めて残念な結果です。
「そう思わない」系の回答者にその理由を尋ねた「介護現場で、ケアマネジメントサイクルを回しながら効果的に働けていない理由を教えてください(複数回答)」との設問への回答は、「業務を振り返るための時間がないから」が58.9%、「ケアマネジメントサイクルの重要性をマネジメント層が理解できていないから」、「改善のために業務の取り組み方を変更するハードルが高いから」がともに39.1%、「何から始めれば良いかわからないから」が25.3%などでした。
この点についてやや踏み込んで考えてみると、「業務を振り返るための時間がないから」の背景には、介護業界の構造的な問題の筆頭である人員不足に伴う過大な業務負荷があると思われます。
同じことは「改善のために業務の取り組み方を変更するハードルが高いから」にも共通するかもしれませんが、これと同率だった「ケアマネジメントサイクルの重要性をマネジメント層が理解できていないから」も原因の1つといえるでしょう。
「何から始めれば良いかわからないから」の回答者については、厳しい見方をすれば実はケアマネジメントサイクルそのものの意味がよく分かっていない可能性があります。
ケアマネジメントサイクルを適正に回していくためには
さてこれを改善する手っ取り早い方法は何でしょうか?肝となるのはケアマネジメントサイクルを適正に回していくためには、実際に利用者にケアを提供している介護現場のスタッフとケアマネジャーとの連携を深めることです。介護でのPDCAサイクルのうちPのPLAN(計画)とAのACT(見直し)は主にケアマネジャー、DのDO(実施)とCのCHECK(評価)は主に介護現場のスタッフが担っていることは周知のこと。この2者の距離を近づけることがケアマネジメントサイクルを良好に進める最良の手段です。
ではそれをどう実現するかです。ケアプランの見直しにつながるやり取りは主にサービス担当者会議で行われるもの。この会議に現場スタッフを積極的に参加させることです。この会議に現場スタッフではなく、施設・事業所の管理者が出席しているケースは意外と多いはずです。それを改めるのです。
「それが無理なのは、現場スタッフが忙しすぎるから」という声も聞こえてきそうです。だからこそ現場スタッフが出席できる時間を確保するように努める、すなわちその時間を確保するために業務効率化をすすめるべきなのです。バックキャスティングでものを考えるということです。
業務効率化は本来ケアの質を高めるとともに現場スタッフの労働環境を改善することを目的に行うものです。ところが最近では業務効率化が目的になっている施設・事業所も見受けられます。
LIFE関連加算の遡り入力が終わった施設・事業所には、今一度立ち止まって考えて欲しいことです。
株式会社ヘルステクノロジー プレスリリース
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