介護現場で働く人の8割以上はコロナ禍後に職場でのデジタル化が進展したと実感しているものの、分野によって差があり、「利用者の介護記録」「薬剤管理」「在宅モニタリングの導入」「スタッフ・職員同士のコミュニケーションツールの導入」などの領域では、まだデジタル化が進展しておらず、その最大の原因は導入資金の問題である__
このほど会議記録専用アプリ「ケア記録アプリ」を展開する株式会社介護サプリ(本社:神戸市中央区)が介護施設・事業所勤務者を対象に行った調査から、このような実態が浮き彫りになっています。今回はこの調査結果について解説します。
スタッフ・職員の勤怠管理やバイタルチェックでデジタル化が進展
調査は「『コロナ禍後の介護業界のデジタル化』に関する調査」というもので、今年4月にインターネットを通じて実施されました。回答したのは介護施設・事業所勤務の1,015人。
コロナ禍前と比較して職場のデジタル化が進んだかについては、「とても進んだ」が31.0%、「ある程度進んだ」が50.9%、「あまり進んでいない」が13.9%、「まったく進んでいない」が4.2%で、実に81.9%がコロナ禍を境にデジタル化が進んだと回答しました。
「とても進んだ」「ある程度進んだ」の回答者831人に、デジタル化が進んだ業務を尋ねたところ、「スタッフ・職員の勤怠管理」が55.5%で最多。次いで「バイタルチェック」が54.2%、「利用者の介護記録」が40.8%、「薬剤管理」が20.3%、「在宅モニタリングの導入」が17.8%、「スタッフ・職員同士のコミュニケーションツールの導入」が14.8%で続きました。
これを見ると、端的に言えば「やりやすいところからデジタル化が始まっている」と解釈できます。「利用者の介護記録」や「スタッフ・職員同士のコミュニケーションツールの導入」といった業務負荷に直結しやすい領域では、まだデジタル化が不十分なことがわかります。
介護記録業務 27.0%の職場で「紙による管理」
一方でデジタル化が「あまり進んでいない」「まったく進んでいない」との回答者184人に、今後の職場でのデジタル化推進の意向を尋ねたところ、「とてもそう思う」が20.7%、「やや思う」が45.6%、「あまり思わない」が23.9%、「まったく思わない」が9.8%という結果でした。
前述のデジタル化について「あまり進んでいない」「まったく進んでいない」と回答し、さらに職場のデジタル化推進意向について「とてもそう思う」と「やや思う」に回答した122人を対象に調査したところ、デジタル化を推進したい業務(複数回答)としては「利用者の介護記録」が63.1%で最多、続いて「スタッフ・職員の勤怠管理」が61.5%、「利用者の健康状態の確認(バイタルチェック)」が52.5%、「薬剤管理」が41.8%、「在宅モニタリングの導入」と「スタッフ・職員同士のコミュニケーションツールの導入」が各34.4%となりました。
また、介護記録業務が実際にどのように行われているかについては、いまだに回答者全体の27.0%が紙に記入している実態も明らかになりました。
デジタル化の障害は資金と人材不足
デジタル化が「あまり進んでいない」あるいは「まったく進んでいない」との回答者184人に、デジタル化が進まない要因を尋ねたところ(複数回答)、最多は「導入資金が不足しているため」が42.4%、次いで「デジタル人材が不足しているため」が34.8%、「スタッフ・職員のリテラシー(PC操作のスキルなど)が不足しているため」が31.5%などでした。
業務負荷改善や生産性向上にはデジタル化がほぼ必須にもかかわらず、まだ実態としては十分でないことは今回の調査結果からは明らかです。しかも、その障害は資金と人材不足が主たるものとなっています。おそらく今回の調査でデジタル化が「あまり進んでいない」「まったく進んでいない」との回答者の職場は多くが小規模施設・事業所と思われます。
他業界との人材争奪戦に勝ち得るだけの賃金が支払えない介護業界では、物価高も重なってそれだけでも小規模施設・事業者にとっては厳しい状況です。加えてデジタル化で後れを取ると、業務負荷改善が進まず、さらに人材確保も困難となります。その意味でこの調査結果は介護業界内の2極化が今後さらに進展していくことをうかがわせています。
株式会社介護サプリ プレスリリース
【関連トピックス】
ICTや介護ロボット ケアの質の向上などに効果も費用の高さが導入のネックに
ICT導入や情報共有、記録形式でケアにかけられる時間は変わるのか
最新データで見る特別養護老人ホームの人材確保および処遇改善実態(9)ICT機器・ロボットの導入状況
【関連資料】
<最新データで詳しく解説>夜勤・夜間体制から考える働きやすい職場づくり