すでに今年上半期時点で介護事業者の倒産が過去最悪のペースで進んでいることを以前、紹介しましたが、どうやら年間でも過去最悪になることが確定した模様です。信用調査企業の東京商工リサーチによると、2024年1~10月の介護事業者の倒産は145件に上り、同社が2000年の介護保険法施行以降、集計している介護事業者の倒産件数では年間最多だった2022年の143件をすでに上回りました。
業種では「訪問介護」、原因では「売上不振」が最多に
倒産の業種別内訳は、訪問介護72件(過去最多2023年67件)、通所・短期入所48件(同2022年69件)、有料老人ホーム11件(同2018年14件)、その他14件です。
原因別でみると、最多は販売不振(売上不振)が105件で全体の72.4%。形態別では全体の94.4%に当たる137件が破産。倒産事業者規模別では、個人企業などを含め資本金1,000万円未満が125件(全体の86.2%)、従業員10人未満が121件(同83.4%)、負債1億円未満が114件(同78.6%)となっています。つまるところ倒産の大半は小規模零細事業者です。
業種別についてもう少し細かく見ていきたいと思います。過去最悪のペースで倒産が報告されている訪問介護事業者ですが、72件の倒産のうち資本金1千万円未満は61件(同84.7%)、従業員数10人未満が68件(同94.4%)と、やはり小規模零細事業者が大半を占めていることがわかります。
訪問介護の倒産増の要因は
訪問介護は介護業界の中でも従来から人材不足によるサービス活動量の低下とそれに伴う収益低下が原因の倒産が多いことが特徴でした。コロナ禍による利用控えは訪問介護事業者にとってはとりわけ大きな打撃でしたが、コロナ禍中の倒産件数は2020年こそ56件と、それまで過去最多だった2019年の58件に匹敵する状況でしたが、2021年は47件、2022年は50件と低下傾向でした。これはコロナ禍関連の各種支援策が小規模零細事業者に“延命”効果をもたらしていたからだと言えます。
しかし、2023年5月に新型コロナウイルス感染症が感染症法上の5類に移行後、各種支援策が縮小したことに加え、2022年2月のロシアによるウクライナ侵略を契機に始まったエネルギー価格高騰が世界的な物価高へと発展したことも訪問介護事業者に大きなダメージを与えたと言われています。訪問介護の場合、サービス提供地域内の利用者宅を1軒1軒車で回ってサービスを提供することがほとんどですので、エネルギー価格の高騰がコスト増大に直結するからです。
しかも、ポスト・コロナとなってからは介護にとどまらず全業界で人手不足が起き、賃金引き上げによる人材獲得競争も本格化しました。公的介護報酬を収益主体とする介護業界では、周辺環境の変化に伴うコスト増を利用者へのサービス提供料に転嫁することができず、人材獲得競争の原資も乏しい状況です。にもかかわらず、訪問介護については2024年の介護報酬改定で基本報酬が引き下げられました。これらすべてが相まって現状のような過去最悪の訪問介護事業者の倒産件数につながっていると考えられます。
ちなみに訪問介護事業者での倒産原因別では、「販売不振(売上不振)」が最多の58件、次いで赤字累積の「既往のシワ寄せ」が7件、「放漫経営」が4件などで、「売上不振」と「既往のシワ寄せ」という利用者の減少などに伴う業績悪化が全体の90.2%を占めていました。
東京商工リサーチでは小規模零細の訪問介護事業者の倒産増がこれから本格化する恐れがあるとの見立ても示し、「訪問介護事業者の倒産増加により、今後自宅で訪問介護サービスを受けられない地域が増えることも考えられる」と指摘しています。
なお、倒産した訪問介護事業者の負債額別では、「1,000万円以上5,000万円未満」が56件で最多。次いで「5,000万円以上1億円未満」が9件、「1億円以上」が7件。「1億円以上」は前年同期から40.0%増加し、負債規模の拡大もみられます。
大手事業者と中小零細事業者との経営格差が広がっている
通所・短期入所は48件で、過去最悪だった2022年の69件を下回っていますが、この年は東京都の「ステップぱーとなー」とそのグループ会社31社の連鎖倒産という特殊事情もあったため、この分を除く実質ペースでは過去最悪のペースです。東京商工リサーチでは「大手事業者との競争激化で脱落した事業者が多い」と分析しています。
さらに有料老人ホームは現時点で11件ですが、過去最悪の14件に迫る勢いです。施設数の増加による競合、物価高が影響していると考えられます。
現状から察するに大手事業者と中小零細事業者との格差が広がっている模様です。東京商工リサーチでは「今後、国や自治体の本格的な指導・支援がなければ、小・零細事業者の淘汰が加速する可能性が高い。同時に、業界でも協働化、再編など経営基盤の強化への取り組みが急務で、このままでは介護事業者の倒産に歯止めが掛からず、全国で『介護難民』の発生が現実味を帯びている」と懸念を表明しています。
東京商工リサーチ
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