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便利な抗菌薬の裏側に潜む「薬剤耐性菌による感染症」を防ぐためには

薬剤耐性菌のイメージ画像

対策すべき感染症として新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)か季節性インフルエンザにばかり注目が行きがちですが、基礎疾患保有者が多く、免疫機能も低下傾向にある高齢者においては、その他の感染症に対する警戒も必要です。そうした中で、医療従事者の中では新型コロナ以前から警戒されてきたのは、抗菌薬が主な原因の1つである薬剤耐性菌による感染症です。

薬剤耐性菌は抗菌薬が効かなくなった細菌のことです。この薬剤耐性菌は、近年まであまり問題視されていませんでしたが、1990年代以降、多くの抗菌薬が安価に使えるようになったことで、濫用が目立ち、薬剤耐性菌にとって生育しやすい環境になり、問題が顕在化したのです。イギリスの研究では2013年時点で全世界で70万人が薬剤耐性菌で命を落とし、具体的な対策を取らなければ2050年に1000万人に達すると推測しています。日本でも厚生労働省が2015年に「薬剤耐性菌(AMR)タスクフォース」を設置して実態解明や対策に乗り出しているのが現状です。

コロナやインフルエンザ同様に深刻度の高い薬剤耐性菌問題

薬剤耐性菌は介護施設ではとりわけ深刻度の高い問題です。高齢者は概して免疫が低下しているため感染症に弱く、基礎疾患があることも多いため、感染症全般で重症化リスクが高くなっています。さらに、そうした高齢者が集合している介護施設では、一度施設内で何らかの感染症が発生すると、施設全体で蔓延する可能性が高まります。

11月21日に「薬剤耐性ワンヘルス動向調査検討会」で公表された2022年版年次報告書によると、全国老人福祉施設協議会加盟の特養139施設での調査日時点で、抗菌薬が使用されていた入居者の割合は1.0%。同報告書によると介護老人保健施設(老健)では1.3%、医療療養病床が9.4%です。
特養で抗菌薬が使用されていた主な感染症は尿路感染症が31.2%、肺炎が14.9%、上気道炎が12.2%などでした。また主に使用されていた抗菌薬は、尿路感染症では経口フルオロキノロン系、肺炎では注射用第3世代セファロスポリン系でした。

この経口フルオロキノロン系、第3世代セファロスポリン系と呼ばれる抗菌薬は、幅広い細菌に効果を示す便利な抗菌薬ゆえ、薬剤耐性菌の発生やまん延防止という点ではむしろ有害な側面もあります。というのも薬剤耐性菌問題が顕在してきた大きな原因は、抗菌薬の濫用でヒトの体内の細菌バランスが大きく崩れ、薬剤耐性菌の生育環境を広げたことにあるからです。幅広い細菌に効く抗菌薬がたくさん使われると、必然的に体内にいる有害無害を問わない様々な細菌が減り、薬剤耐性菌が生育しやすい環境ができてしまいます。

新型コロナ対策と同様に感染防止策の徹底を

薬剤耐性菌対策の最優先事項は抗菌薬の不適正、過剰な使用の是正により、薬剤耐性菌が生育しやすい環境をつくらないことです。具体的には、抗菌薬を使用する場合はなるべく個々の感染症に即した抗菌薬を選択することが大事です。例えば尿路感染症の場合、発症を感知した時点で原因となる細菌を細かく特定はできなくとも、「概ねこの分類に属する細菌のどれかだろう」くらいの判断はつくので、そうした原因の可能性がある細菌群のみに効く抗菌薬を選択することが求められます。

しかし、薬の処方選択は医師が行うことなので介護施設側ではどうにもできないことです。では介護施設側はどのような対策を行えば良いのでしょうか。これまで新型コロナ対策で行っている感染防止策を徹底することです。原則としては(1)持ち込まない(2)持ち出さない(3)拡げない、の3点です。

薬剤耐性菌に限らず、感染症では原因微生物が外部から施設内に何らかの形で持ち込まれる可能性が考えられます。そのため施設内外を行き来する職員、利用者の面会者の感染対策、を新型コロナ対策と同様に徹底することです。また、現時点で知られている薬剤耐性菌の多くの感染経路は接触感染ですが、新型コロナが蔓延している現在においては、新型コロナ対策としてのマスク着用は別途必要です。

一方、薬剤耐性菌は、過去に抗菌薬に処方を受けた利用者の体内から検出されることもあります。もっとも、利用者の薬剤耐性菌保菌状況を検査するのは現実的には困難です。利用者の体内にいる薬剤耐性菌は、排泄物や体液などを介した接触感染で他の人に広がるため、すべての人が感染性のある細菌を保有しているとの前提で感染対策を行う必要があります。これは標準予防策(スタンダード・プリコーション)と呼ばれるものです。

具体的な対応を説明します。まず、おむつ交換、尿の廃棄、嘔吐物の処理、痰の吸引、褥瘡など皮膚表面の傷口ケアなどの際は、手袋、エプロン、ガウンなどを着用して行うことが望ましいでしょう。痰の吸引時は飛沫感染の恐れがあるので、対応する職員はマスクを、褥瘡ケアのように患部に顔を近づけて状態を確認することがある際はゴーグルの着用も必要です。このようなケアの後、対応した職員は石鹸と流水での手洗いを必ず行いましょう。手洗いが行えない場合はアルコールによる手指消毒に代えても構いません。手洗い後に念のためアルコール消毒を行っても構いませんが、必須とまではいえないでしょう。ただし、後述する感染が起きやすい症状を起こしている場合は、こうした念入りな対応も検討します。さらに薬剤耐性菌は排泄時に保菌者から排出されるケースが少なくないので、日常的にトイレの便座やドアノブの消毒は行っておいた方が良いでしょう。

今回の報告書では、高齢者で最も多い感染症として尿路感染症が報告されています。高齢者の中には排尿障害を起こす基礎疾患を有する割合が多く、それが尿路感染症の発生につながっているからです。尿路感染症は特に排便後の処理、具体的にはトイレットペーパーでのふき取り直後に便に含まれていた細菌が性器などに接触することで起こります。そのため身体構造上、尿路感染症は女性に多いことが知られています。排泄ケア時はこのことを念頭に排便時の飛沫が性器を含む周囲に触れないよう注意を払いましょう。

薬剤耐性菌の保菌がすでに検査などで判明し、咳や発熱、下痢などを発症している場合は、前述の標準的予防策の徹底、とりわけ手洗いの励行がさらに求められます。また、多床室の施設では該当利用者のより個室に近い空間への移動や共同利用の浴室利用順を最後にするなど対策も検討が必要です。

日々の対策やちょっとした困りごとなどはオンライン医療相談の活用も

いち薬剤耐性菌の保菌が判明しても無症状の利用者の場合は、標準予防策を施設内で行っていれば、多くの場合は新たに特別な対応は必要ありません。室内でのレクリエーションの参加にも制限は必要なく、寝具類や食器、居室の清掃も基本的に通常対応となります。

とにもかくにも、標準予防策を平時から徹底することが何よりも肝要です。薬剤耐性菌に起因するか問わず、利用者が感染症の症状を発症した際には利用者の状態を事細かに確認し、配置医師や協力医療機関受診時にその様子を丁寧に伝えましょう。これが医師による適切な抗菌薬を選択の助けとなり、長期的視野での薬剤耐性菌の発生防止につながります。また、配置医師に連絡が取りにくい場合は、外部のオンラインや電話による医療相談などを利用して過大・過小な対応にならないようにすることも選択肢の一つです。

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