国が各地域での医療・介護・介護予防・住まい・生活支援が包括的に確保される「地域包括ケアシステム」の構築の完成を謳った2025年が目前に迫ったいま、創設から22年が経過した介護保険は大きな曲がり角に差し掛かっています。そうした中で厚生労働省の社会保障審議会介護保険部会では2022年3月以降、14回にわたって、こうした時代状況に合わせた介護保険制度の見直しに関する審議を重ねています。今回は2022年12月20日付で公表された議論の成果「介護保険制度の見直しに関する意見」の内容から介護現場にとって重要と思われる部分を解説します。
特養の医師配置について何らかの変更が行われる可能性
公表された「意見」は全体として「地域包括ケアシステムの深化・推進」と「介護現場の生産性向上の推進、制度の持続可能性の確保」の2つの大項目に分かれ、さらに前者では「生活を支える介護サービス等の基盤の整備」「様々な生活上の困難を支え合う地域共生社会の実現」「保険者機能の強化」、後者では「介護人材の確保、介護現場の生産性向上の推進」「給付と負担」の中項目に分かれています。この中で直接現場に関係するのは前者の「生活を支える介護サービス等の基盤の整備」と後者の「介護人材の確保、介護現場の生産性向上の推進」の主に2つでしょう。
「生活を支える介護サービス等の基盤の整備」は、さらに8つの小項目に分かれて記述されています。この中で特別養護老人ホームについてわざわざ言及している部分が3か所あります。まず小項目「医療・介護連携等」で「特別養護老人ホームにおける医療ニーズへの適切な対応の在り方について、配置医師の実態等も踏まえつつ、引き続き、診療報酬や介護報酬上の取扱いも含めて、検討を進めることが適当である」と記述しています。端的に言うならば、現在多くが非常勤である、特別養護老人ホームの配置医師に関して、報酬面含め何らかの変更を行う可能性を示唆するものです。また残る2か所はいずれも小項目「施設サービス等の基盤整備」の中で、特別養護老人ホームでの特例入所について地域的なばらつきがみられることに対して地域の実情に応じた弾力的運用を図るよう求めているものです。
少なくとも関係者にとってはいずれも目新しいものとは言えないでしょうが、この2点についてはとりわけ2024年春のトリプル改定などに向けて大きく切り込んでくるであろうポイントの一つとして継続し注視する必要があります。
外国人介護人材の受け入れをさらに積極的に後押し
一方、現場としてより気になるのは「介護人材の確保、介護現場の生産性向上の推進」の方でしょう。特にこの中の小項目「総合的な介護人材確保対策」については、ほぼこれまで言われていることを判で押したかのような内容にも見えますが、実は微妙な変化も認められます。それは外国人介護人材の受け入れに今まで以上に前向きな意見となっている点です。この中では「外国人材の受入れ環境整備」と「外国人介護人材の介護福祉士資格取得支援等の推進」と2段構えで外国人介護職員に関して言及がなされています。背景には国内労働市場だけでは介護業界の人材不足がどうしても解消できないこと、2020年以降のコロナ禍で感染対策などの業務が増しながら、国の水際対策などで外国人介護職員の受け入れが停止し、現場の一部では疲弊が加速したこと。さらには各種調査などからは現場では外国人介護職員の受け入れがかなり進んでいる実態が明らかになっていることなどが挙げられるでしょう。
新たに追記された「介護現場のタスクシェア・タスクシフティング」
この他にこの中項目内で触れられているのは「施設や在宅におけるテクノロジー(介護ロボット・ICT等)の活用」「経営の大規模化・協働化等」「文書負担の軽減・標準様式」「財務状況等の見える化」など、これまでさんざん言われてきたことばかりですが、その中でも比較的目新しいと言えるのが「介護現場のタスクシェア・タスクシフティング」です。これは介護専門職(有資格者)が行うべき業務とその他の業務を切り分け、後者では幅広い労働者層、例えばADLが維持されて一定の労働ができる高齢者などが働き手に参入できることなどを意図したもので、すでに一部で実証事業も行われています。 実はこの手の動きは介護より先に薬局で始まっています。薬局の現場では薬剤師不足が長年叫ばれながら、薬剤師がやらなくても安全性に不安がないものまで薬剤師が担当することが多く、どこまでが薬剤師の業務なのかが議論され、最近この切り分けが始まりました。こうした専門職が専門業務に関与する時間を密にするための環境整備がついに介護業界でも始まったということでしょう。
【参考】
令和4年12月20日
社会保障審議会介護保険部会「介護保険制度の見直しに関する意見」
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