信用調査会社最大手の帝国データバンクは、このほど「人手不足に対する企業の動向調査(2023年1月)」を発表しました。その結果によると、調査対象企業(全国2万7,362社)のうち、正社員の不足を感じている割合は 51.7%、非正社員の不足を感じている割合は 31. 0%で、それぞれ5カ月連続で5割超、3割超の高水準で人手不足を感じていることが明らかになりました。介護業界は二言目には「人手不足」がキーワードになる業界ですが、今回は社会全体での人手不足感の実態をこのデータをもとに解説しながら、介護業界がとるべき方策に関しても考えたいと思います。
「医療・福祉・保健衛生」企業の58.5%が人手不足を感じている
人手不足を感じている企業の割合を業界別にみると、トップは「旅館・ホテル」の77.8%、次いで「情報サービス(IT)」の73.1%、「メンテナンス・警備・検査」の68.7%などです。この中で第10位に「医療・福祉・保健衛生」の58.5%が入ります。「医療・福祉・保健衛生」に関するこの割合は、前年同月の51.2%、前々年同月は40.7%でした。
前々年度では、今回同様に「旅館・ホテル」がトップではありましたが、全業界の人手不足を感じていた企業割合はわずか5.3%に過ぎません。当時の業界別順位で「医療・福祉・保健衛生」は第6位でした。端的に言えば、現在の「医療・福祉・保健衛生」業界の順位は、コロナ禍の影響をダイレクトに受け、人手不足感が増した結果であり、慢性的な人手不足感が続いている業界と言えそうです。
非正社員の人手不足を感じていると回答した企業の業界別割合はやはり「旅館・ホテル」の81.1%がトップで、次いで「飲食店」の80.4%、「人材派遣・紹介」の60.5% となります。こちらのランキングでは「医療・福祉・保健衛生」業界は上位10業種には入ってきません。これは有資格者の正社員が優先される業界特有の事情があると考えられます。
人手不足を背景に賃上げに踏み切る企業も多い
さて今回の調査は「人手不足に対する企業の動向調査」と同一対象企業から「2023年度の賃金動向に関する企業の意識調査」の結果を得ています。それによると、回答企業の56.5%が2023年度に賃上げの見込みと回答しています。このうち人手不足と回答した企業では2023年度に賃上げ見込みと回答した企業の割合は63.1%と、全体よりも高いことが明らかになりました。
従業員数区分でみると「6~20人」「21~50人」「51~100人」のような中小企業で特に賃上げ意識が高いこともわかっています。
容易に賃上げ競争に参加できない介護業界がとるべき道は
介護業界での今後の在り方について触れていきたいと思います。介護業界は慢性的な人材不足ですが、この背景には新規に介護業界で働こうとする層が少ないことが一つの要因と言われています。
しかし、各業界の人手不足が深刻化している中で、介護業界が新規参入組を獲得するのは困難と考えられます。というのも、この調査結果から分かったように人手不足企業では全般的に賃上げを人材確保の手段に考えていることが今回の調査結果から明らかになったからです。
介護業界の場合、公的介護報酬が収入源である以上、他の業界と異なり、事業所の増加などがない状態で売上高を右肩上がりにすることはできません。当然ながら賃金をあげることは限界があり、他の業界と賃上げ競争をすれば疲弊するだけです。
むしろ優先的に取り組むべきことは、現有人員の離職防止となります。この点においても、賃上げによる離職防止策は他の業界に比べ困難ですので、まずは現在の業務の効率化により職員の業務負荷を優先すべきでしょう。そのために業務に無駄がないか、外部に委託できる業務はないかを再点検しましょう。着実に行うことで、既存職員の目先の賃金を大幅に引き上げなくとも賃金割安感を緩和できる可能性があります。また、業務改善の積み重ねにより、経費そのものの絶対額も減らすことができれば、新たな雇用に向けた経費の捻出にもなります。単純に世の労働市場の動きに引きずられないことが今は肝要です。
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