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【ニュース解説】財務省 社会福祉法人の一部に「処遇改善加算などが職員の給与に十分に還元されていない可能性」を指摘

介護報酬も含めたトリプル改定議論に反映される可能性

財務省は6月30日に令和5年予算執行調査の概要を公表しました。介護に関しては「介護サービス事業者の経営状況等」について、財務諸表が公開されている社会福祉法人に関する調査を行い、現預金・積立金が増加しているにもかかわらず、職員の給与水準は横ばいの状態であることから「一部の法人においては職員の給与に十分に還元されていない可能性がある」と指摘。そのうえで「職員給与への適切な還元を促進する仕組み作りを検討すべき」と提言しています。今回はこの件について解説します。

財務省の「予算執行調査」とは?

まず、「予算執行調査」についてここで改めて説明をしておきます。この制度は2002年度からスタートした取り組みで、財務省が財政資金の効率的・効果的な活用を目的に予算執行の実態を調査して改善すべき点を指摘し、次年度以降の予算の見直しにつなげていく取組みです。

調査は毎年行われ、予算編成が終了した年明けから調査対象事業の選定を開始し、4月初めに調査対象事業を公表の上で調査に着手。6月末から7月にかけて調査結果を公表されています。今回の令和5年予算執行調査での介護サービス事業者の経営状況等以外の厚生労働省関連調査項目は、「新型コロナウイルスワクチン接種体制確保事業費臨時補助金」「診療報酬(調剤報酬)」「就職支援ナビゲーター等」などです。 

この調査の特徴は財務省の主計官自らが調査を行う点です。主計官は財務省主計局に設置されている予算案の査定および作成を任務とする役職。主計官はそれぞれ担当省庁があり、担当省庁から政策やその実行に必要な予算額などをヒアリング・査定し、予算の原案を作成するという重要な役目を担っています。つまり自分が予算作成で“承認”した事業を、地方財務局とともに自ら執行状況を調査するのです。

これについては「自分が認めた予算を自分がチェックするのはどうなの?」と思う人もいるかもしれません。ただ、国の事業は多くが当初は海のものとも山のものともつかないものが多いので、予算執行調査によるチェックにより予算の効率的運用につなげているのです。実際、初めて行われた予算執行調査の結果が反映された2003年度予算の政府案では、調査結果に基づき約189億円の経費節減を実現しています。

社会福祉法人の現預金・積立金の推移と職員1人当たりの年間給与を調査

今回の「介護サービス事業者の経営状況等」については、独立行政法人福祉医療機構の社会福祉法人の財務諸表等電子開示システムに掲載されているデータを活用して介護事業を営む社会福祉法人を調査しています。

具体的には同システムを使って、介護事業を営む社会福祉法人を現預金・積立金が年間費用の何カ月分を保有しているかで区分し、各区分で職員1人当たりの年間給与を比較したものです。それによると、現預金・積立金が年間費用の3か月分未満の法人(2077法人)の職員1人当たりの年間給与は411万円、以下3~6か月分(1734法人)では433万円、6~9か月分(1050法人)では431万円、9~12か月分(701法人)では429万円、12か月分以上(1047法人)では431万円となりました。

財務省「令和5年度 予算執行調査の調査結果の概要」 より

内部留保が極端に少ないところは別にして、それ以外では内部留保の額と職員給与には全く相関がないということです。この結果を受けての「一部の法人においては職員の給与に十分に還元されていない可能性がある」との指摘は極めてやんわりした表現で、ズバリ言えば「処遇改善加算など人手不足対応をしているにもかかわらず、職員の給与アップに使わず、貯め込んでいる法人がいるのではないか?」と指摘しているのです。処遇改善加算分を職員の給与に反映するかどうかは、現状は各法人任せですので、それゆえに「職員給与への適切な還元を促進する仕組み作りを検討すべき」という提言につながっているのです。

今回の分析は社会福祉法人のみであるため、調査結果では「介護サービス事業を行う医療法人や営利法人等についても同様に、貸借対照表等の公表を求め、保有資産を含めた『見える化』を推進する必要がある」との見解も示しています。

拠点数や事業規模(収益額)が大きくなるほど、職員給与やサービス活動増減差額率が上昇

さらに調査では、拠点数や事業規模(収益額)が大きくなるほど、職員給与やサービス活動増減差額率が上昇していることが明らかになりました。このことを踏まえて「複数事業所の経営や事業規模の確保を推進することにより、事業者の経営状況の安定・改善を図るとともに、職員1人当たり給与の引上げにつなげることが重要であり、経営支援や制度の改善等をはじめ、事業の協働化・大規模化に向けた取組を進めるべきである」と述べています。もっともこの点は財務省の財政制度審議会などでも繰り返し指摘されていることです。

財務省「令和5年度 予算執行調査の調査結果の概要」 より

いずれにせよ今回の指摘内容は、秋以降本格化する介護報酬も含めたトリプル改定議論に何らかの形で反映されてくる可能性が高いポイントと考えておいていいでしょう。

財務省「令和5年度 予算執行調査の調査結果の概要」

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