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【ニュース解説】将来の介護報酬改定議論にも影響必至 内閣府・規制改革推進会議 その答申を読む

 

内閣府に設置された規制改革推進会議は5月31日に今年度の規制改革推進に関する答申案を公表しました。

同会議は経済社会の構造改革を進める上で必要な規制の在り方の改革に関する基本的事項を総合的に調査審議することを目的とした内閣府の諮問会議です。今回の答申案では「利用者起点の社会変革」というサブタイトルが銘打たれています。

先進国トップの少子高齢社会が進行する中で、人口減少により生じるさまざまなサービス提供の制約を、スタートアップの成長やデジタルの活用、さらには働き方改革による多様な労働力の投入によって乗り越えていくとの考えがこのサブタイトルには込められています。今回は、答申案の中で介護について、どのような論点が示されているかを解説します。

介護分野で規制改革が進められる6つのポイント

答申案で挙げられている項目を列挙すると、以下の6点になります。

(1)デジタル、AI等を活用した要介護認定の迅速化及び科学的合理性の確保等

(2)介護現場におけるタスク・シフト/シェアの更なる推進

(3)高齢者施設における人員配置基準の特例的な柔軟化

(4)介護サービスの人員配置基準に係るローカルルールの整理・公表

(5)地域内の複数種類の介護サービスに関する一体的マネジメントの実現

(6)介護・保育・障害福祉分野における合併、事業譲渡等に関するローカルルールの防止等

これらの項目自体は見覚えのある人がほとんどではないでしょうか?規制改革推進会議は2019年(令和元年)から常設機関として内閣府に設置されていますが、2020年以降毎年度、答申が公表されています。答申内容については、大枠の方針の下で具体的に何に取り組むべきかを細分化して提示し、実施目標などを定めて毎年度の答申で経過を報告しています。このため、今回挙げられた項目のうち、早いものは2021年答申から登場しています。

今回の(1)~(6)については、それぞれ上位となる大項目があり、(1)は「デジタルヘルスの推進」、(2)~(5)は「医療職・介護職間のタスク・シフト/シェア等」、(6)は「医療・介護等分野における基盤整備・強化」の下でそれぞれ挙げられています。では各項目で規制改革推進会議が行うべきとしている細目と、なぜ規制緩和が必要とされているのかを簡単に説明します。

(1)デジタル、AI等を活用した要介護認定の迅速化及び科学的合理性の確保等

・要介護認定申請から認定までの所要期間、認定審査期間が30日超の件数と要介護認定申請件数全体に占めるその割合、認定調査依頼から調査実施までの所要期間、保険者による主治医意見書依頼から入手までの期間、コンピュータによる一次判定から介護認定審査会の二次判定の所要期間、要介護認定での二次判定の変更率を全国集計、都道府県別、保険者別に毎年度厚生労働省ホームページにおいて公表

・認定審査期間中の各段階の作業が認定審査期間に及ぼす影響を分析し、各保険者が目指すべき目安となる認定審査期間を検討・設定

・更新申請などで行われている介護認定審査会の簡素化が可能な範囲を拡大。国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の長寿科学研究開発事業として行われた機械学習を用いたAIによる要介護認定審査に関する研究の成果も踏まえた活用モデル事業の実施

・要介護認定申請者が事前に入手した主治医意見書の申請時提出の実現

・末期がん患者など心身状態が急激に悪化する利用申請者への迅速なサービス提供のため、暫定ケアプランの活用推奨、主治医意見書の簡易作成や医療・介護の連携などに関する事務連絡を厚労省が発出。こうした申請者での認定審査期間などを毎年度調査し、その結果を公表。さらにこのような申請者での医師の診断書提出を要件とした迅速認定方法の検討・可能な場合の必要な措置の実施

・主治医意見書提出のデジタル化、介護認定審査会のオンライン開催やペーパーレス化など要介護認定のデジタル化の一層の推進と進捗状況の公表

・現行の要介護審査の一次判定の基礎データへの在宅介護、通所介護などの幅広い介護サービス利用者のデータを追加による基礎データ更新と認知症利用者の認定調査項目の検討と必要に応じた見直し

・より多くの変数から迅速化かつ科学的合理性も向上した要介護認定を行うAI活用の調査研究の実施

介護保険法では、市町村や特別区による要介護認定は、サービス利用予定者の調査に特段時間がかかる場合を除き、申請から30日以内に行うことが義務として定められていますが、現実には9割以上で平均30日超になっていることが問題視されています。

(2)介護現場におけるタスク・シフト/シェアの更なる推進

・PTPシートからの薬剤の取り出し、お薬カレンダーへの配薬など介護職員が実施可能と整理されていない行為のうち、安全性面で低リスクかつ状況判断が容易で専門的な知識・技術を必要としない医行為ではないと考えられる範囲を更に整理

・一定の要件の下、介護職員が実施可能と考えられる医行為の明確化と実施可能とするために必要な法令や研修体系について検討

・介護職員の喀痰吸引等研修の基本研修のオンライン化や特定期間内の集中的受講の必要はないことの明確化。(2)-2で可能となった医行為でも同様のことを実施

・厚生労働省通知で原則医行為には該当しないと示されている行為を実施する場合の留意事項、観察項目、異常時の対応などの介護現場が必要と考える内容などを盛り込んだタスク・シフト/シェアに関するガイドラインの新たな策定と公表

いわゆる医療行為は医師あるいは看護師が行うという法令上の規制があり、介護現場では医学的に見て必ずしも医師・看護師などが行わなくても良い軽度の医療行為も看護師などが行っているため、高齢者人口増加による利用者増と相まって必要なケアを適時に提供できない場合があり、結果として利用者の不利益となっている事例があります。

(3)高齢者施設における人員配置基準の特例的な柔軟化

・令和6年度から特定施設入居者生活介護で生産性向上に先進的に取り組んでいる場合の看護職員および介護職員の合計数について、常勤換算方法で、要介護者である利用者の数が3(要支援者の場合は10)又はその端数を増すごとに0.9以上であること」とする(措置済み)

・特定施設で人員配置の特例的な柔軟化を適用する際、指定権者(地方公共団体)が不適切なローカルルールを適用しないよう客観的な指針や統一様式を策定。特定施設が一定期間の試行を行った結果、指定権者がケアの質の確保や職員の負担軽減を定量的に確認できた場合は、指定権者が届出を受理した段階で柔軟化された人員配置基準の適用を容認

・特定施設に関する国の実証事業で介護ロボット・ICT機器の活用などにより人員配置基準の特例的な柔軟化の見直しが可能となるエビデンスが確認された場合や特定施設以外の高齢者施設で国の実証事業により特定施設と同様のエビデンスが確認された場合は、次期介護報酬改定を待たずに社会保障審議会介護給付費分科会で意見を聴取して人員配置基準の特例的な柔軟化の見直し、対象施設範囲の拡大などを検討し、結論を得られ次第実施。国の実証事業への応募施設数や他のサービス類型からの応募が増加するよう募集内容や周知方法の見直しを継続的に実施。特例的な柔軟化の適用を受け、ケアの質の確保や職員の負担軽減などを実現した高齢者施設の事例集を作成・公表

(4)介護サービスの人員配置基準に係るローカルルールの整理・公表

・ローカルルールの実態の把握、要因分析、対応策の検討を行うための調査研究事業の実施

・上記の結果を踏まえた人員配置基準の解釈などの明確化と周知。地方公共団体ごとのローカルルールの整理・公表

もはや言わずと知れた介護現場での人手不足の中で、介護の質の維持・向上や介護職員の負担軽減も兼ね揃えた生産性向上の観点から、介護ロボット・ICT機器の活用など一定の要件を満たす施設での人員配置基準を特例的に柔軟化しています。しっかしながら、ローカルルールなどでそのハードルがより高くされている事例があります。また、こうしたことを実現するための実証実験などの成果が反映されるには、従来ルールに沿うと介護報酬改定を待たなくてはならず、柔軟性に欠ける側面があります。また、ローカルルールの存在が利用者の不利益や施設側の事務負担増につながっている現実があります。

(5)地域内の複数種類の介護サービスに関する一体的マネジメントの実現

経営能力を持つ人材が限定されることを踏まえ、介護サービス種別ごとに定められている管理者の人員配置基準を改め、同一の管理者が複数の介護サービス事業所を管理できるようにするものです。ちなみにこれについては今回の答申案にある項目の中で唯一、すべて2023年に措置済みです。

(6)介護・保育・障害福祉分野における合併、事業譲渡等に関するローカルルールの防止等

・介護事業者などが合併、事業譲渡などを行う場合に必要な手続に関する手順や処理期間、合併、事業譲渡などの事例、合併、事業譲渡等に至った経緯、目的や効果などを記載したガイドラインの作成・公表

・厚生労働省が令和2年3月に策定した社会福祉法人の「合併・事業譲渡等マニュアル」の見直しとその公表。マニュアル内で各種手続の処理期間の目安などを記載。社会福祉法人の合併、事業譲渡などに必要な手続の簡略化の検討

・老人福祉法に基づく介護サービス事業者の届出関連文書、児童福祉法などに基づく保育事業者の認可申請関連文書などで、介護保険サービスや障害福祉サービスの標準書式と共通化可能な部分を共通化と押印や署名欄を廃止した標準様式および標準添付書類の作成と全国一律でこれら様式で手続を行うための措置の実施

・介護事業者などが合併、事業譲渡等を行う場合に必要な手続に関するローカルルールについて、事前相談制度、認可申請関連文書の様式や添付書類などのローカルルールの有無・内容などを整理・公表

・介護事業者などの合併、事業譲渡時に必要な手続のうち、老人福祉法の規定で地方公共団体に対して行う申請・届出の電子的申請・届出を可能とするためのシステム整備要否の検討と必要な措置の実施。システム整備を行う場合、地方公共団体ごとのシステムの利用の有無の厚生労働省による公表。介護事業者が合併、事業譲渡を行う場合に必要な手続のうち児童福祉法や社会福祉法の規定で地方公共団体に対して行う申請・届出について、介護事業者の選択で適切なデジタル技術や書面で申請・届出を行うために必要な措置の実施

・介護事業者などが合併、事業譲渡を行う場合に必要な手続のうち、老人福祉法の規定で地方公共団体に対して行う申請・届出では、介護事業者や障害福祉サービス事業者が全地方公共団体に対して必要な申請・届出を電子的に一括した申請・届出を可能とするための電子申請・届出システムを参考にしつつ、法人関係事項その他の事業所固有の事項以外に関して標準様式などに関する検討結果を踏まえ、届出手続のワンストップ化を実現する方向で検討。地方公共団体ごとに既存の電子申請・届出システムの利用の有無を厚生労働省が公表

高齢化と人口減少が同時進行する中で、良質な介護・保育・障害福祉サービスの持続性を確保し、サービスの中断・停止などを回避するため、これら各事業者の協働化や合併、事業譲渡などによる経営力強化や事業承継を円滑にすることが重要になっています。しかし、自治体による認識の差やそうした事例が少なさなどから進展していないことを踏まえた検討項目です。

決定事項を『骨抜き』にさせない 内閣府としての強い意思

これらについては、規制改革指針会議内で合意が得られた措置(必要な手続きを取ること)の実施時期にはばらつきがあり、医行為にかかわる部分ほど措置までに時間がかかっています。この辺は日本医師会との調整が必要になるためと考えられます。

さて今回の答申案の概論の最後では「規制改革については、これまで何度となく、答申や閣議決定が行われてきた。しかし、当初意図された改革が違った形で進むケースがしばしばみられる。決定事項が『骨抜き』にならないよう、規制所管府省の検討等において、会議の意見が適切に踏まえられているか、改革が逆行していないか等、会議として、しっかりとフォローアップしていかなければならない」とわざわざ苦言を呈するかのような文言が付け加えられています。規制改革推進会議側のいら立ちが露骨に表現されています。その意味で介護関係者は、今回の答申案で示されたものが、検討とともにどこで「骨抜き」にされるかを注視しておいた方が良いでしょう。それが医療・介護という業界を俯瞰的に理解する上で重要なポイントになります。

内閣府 規制改革推進会議

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