次回の介護報酬改定は、通常の改定と違い診療報酬と障害者福祉サービス報酬とのトリプル改定になるため、これらとの連携に関する報酬評価が大きなカギを握ります。とりわけ介護の場合は、診療報酬改定の議論を常に横目で眺めておく必要があります。10月4日に開催された中央社会保険医療協議会(中医協)では、高齢者施設に頻回に訪問診療を行うケースについての評価適正化が議題の1つとなりました。今回はこの件について解説します。
国は昨今、在宅医療の質と量の充実に注力しています。これは医療機関での入院医療対応はコストがかさみ、少子高齢化が進む現在の状況では社会保障費の増大に拍車をかけるからです。つまり在宅医療の充実とは「居宅の病床化」を意味します。もっともこれは医療提供者側にとっては、ある意味不都合です。これまでは外来・入院のいずれでも患者が医療機関に来院するという形でしたが、逆に医療従事者が病床化された患者の居宅に赴かねばならなくなったからです。その分だけ時間とコストを要するわけですから、医療提供が以前と比べれば非効率になってしまいます。
そうした中で高齢者にとって終の棲家になりつつある高齢者施設への訪問診療は1つの場所に赴くだけで入所している複数の高齢者の診療ができるという点で効率性は良いと言えるものです。このためとりわけサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)や有料老人ホームなどへの訪問診療は医師によるパイの奪い合いのような状況を呈しています。
月4回以上の訪問診療で取得可能な「頻回訪問加算」
今回、中医協で問題となったのは、在宅時総合医学管理料、施設入居時等医学総合管理料を算定している場合にケースバイケースで取得可能な「頻回訪問加算」です。これは末期のがん患者や在宅での血液透析や中心静脈栄養、酸素療法など一定の厳重な管理を複数抱えている患者に対し、月4回以上の訪問診療を実施した場合に月1回に限定で600点が算定できる加算です。
中医協ではNDBデータ(令和4年4月~令和5年3月診療分)に基づき同加算の算定状況が示されましたが、算定されている患者のうちがんの患者はわずか0.7%に過ぎず、しかもがん患者以外では連続3か月以上算定している患者の割合が51%と過半数を占めていることが明らかになりました。そもそも同加算は、末期のがん患者など看取りも視野に入った高齢者を診療する場合には短期的には労力がかかるので、その点を診療報酬で評価するという趣旨でした。
国はそこまでははっきり明示していませんが、加算新設時は明らかに「太く短いもの」を高い点数で評価するというものでした。その代表例がおおむね半月前後で看取りとなる末期のがん患者の緩和ケアでした。実際、公開された前述のNDBデータでは、がん患者の場合は初月の算定のみが57%、連続2ヶ月まで含めると74%です。
しかも、NDBデータからは頻回訪問加算を1回以上算定している2402施設のうち全体の1%強が在宅時総合医学管理料、施設入居時等医学総合管理料を算定している患者の50%以上で同加算を取得していることも分かっています。率直に言えば「ごく一部の医療機関はそれほど重症ではない患者に行き過ぎた濃厚診療を行って同加算を取得し、儲け主義に走っているのでは?」とやんわり指摘しているわけです。
訪問診療の理由となる疾患 高齢者施設では半数以上が認知症
また、中医協では、社会医療診療行為別統計(各年6月審査分)から機能強化型在宅療養支援診療所・病院を中心に、難病以外での月2回以上の訪問診療を行っている場合の施設入居時医学総合管理料の算定回数が、2022年には2017年比で1.6倍に顕著に増加していることが示されました。ちなみに施設入居時等時医学総合管理料は単一建物診療患者が1人の場合、2人以上9人以下の場合、10人以上の場合で算定点数が異なりますが、同統計で前述の算定回数の増加率は、2017年比で2人以上9人以下の場合では58.4%増、10人以上では63.0%増となっていました。
さらに令和4年の診療報酬改定の結果検証に係る特別調査の結果から、訪問診療を行っている患者での要介護度4以上の割合は、戸建てなどの患者は46.6%に対し、高齢者施設の患者は38.7%、認知症高齢者の日常生活自立度で自立と判定されている割合は戸建てなどの患者は21.8%に対し、高齢者施設の患者では7.8%といずれも高齢者施設で低く、訪問診療の理由となる疾患(複数回答)は、高齢者施設の患者で認知症が52.9%を占め、戸建てなどの患者の21.7%に比べて大幅に高いことがわかりました。
一方、訪問診療の実態に関しては、同じく令和4年の診療報酬改定の結果検証に係る特別調査の結果から明らかになりました。訪問診療を実施している患者全体の平均診療時間は、1か月間の訪問診療実施回数が1回では17.5分で、回数が多くなるほど診療時間も長くなり、5回の場合は25.8分でした。しかし、単一建物での診療患者数が多くなると、1カ月の診療実施回数が多い場合であっても診療時間が短くなる傾向もわかりました。具体的には単一建物で6~9人の診療を行っている場合は、月当りの訪問診療実施回数が1回での平均診療時間は12.9分に対し、2~4回では6.5~15.0分、10~50人の診療を行っている場合は、月当りの訪問診療実施回数が1回での平均診療時間は10.0分に対し、2~5回では4.0~10.0分でした。
さらに在宅医療に従事する医師1人当たりの在宅患者訪問診療料の算定回数は平均で月46.8回でしたが、以下のようなこともわかりました。
▽月300回を超える医療機関もある
▽医師1人当たりの在宅患者訪問診療料算定回数が多いほど高齢者施設の患者に訪問診療を提供している割合が高い
▽在宅患者訪問診療料の算定回数が月500回以上の医療機関では、訪問診療の頻度(在宅患者訪問診療料の算定回数/算定件数)が月平均4回超の医療機関が一定数ある
▽訪問診療頻度が月平均4回以上の医療機関は月平均4回未満の医療機関と比べてターミナルケア加算や往診料の算定回数が少ない
▽在宅患者訪問診療料の算定回数が月1,000回以上の医療機関の多くは、算定している総合医学管理料に占める施設入居時等総合医学管理料の割合が80%以上
▽算定している総合医学管理料に占める施設入居時等総合医学管理料の割合が80%以上の群と80%未満の群で比較すると、80%以上群はターミナルケア加算の算定回数と往診の算定件数が少ない
結局、これらも総合してみれば、「高齢者施設を中心に重症度の低い患者に頻回訪問して効率的に診療報酬を算定している、やや口汚い言い方をすれば荒稼ぎしている医療機関があるんじゃないですか?」と国側は言いたいということです。これに対する医療側の反論もあるでしょうが、これらのデータは少数派とはいえそうした医療機関の存在を示しています。そして今後、国がこのような医療機関に“メス”を入れようとしている意図もうかがえます。もちろん診療側委員の発言力が大きい中医協の場で国側が意図する施設在宅医療の診療報酬適正化が今後すんなり受け入れられるかどうかはまだわかりません。
ただ、診療報酬適正化までは踏み込めなかったとしても、今後こうした実態に地方厚生局などが個別指導を強化してくる可能性はあります。高齢者施設側の嘱託医がそうした”お上が目を光らせる”ような医師だった場合は、意図せず施設側も巻き込まれる可能性があります。その意味では今後の嘱託医や連携医療機関の選定の際は、この点も考慮する必要があることは念頭に置くべきでしょう。
厚生労働省 中央社会保険医療協議会 「在宅(その2)」
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