
4月は改正された法律の施行が重なる時期でもあります。この4月に改正された法律の一つが介護・育児休業法です。同法は迫りくる少子高齢化時代に向けて、すでに1992年に施行された法律です。少子高齢化で労働人口の減少が予想される中、妊娠・出産・育児や家族の介護のための離職などにより、労働人口の減少が加速化することを防ぐために制定された法律です。ここ数年は世間の働き方改革と少子高齢化の一層の進展により、同法は頻繁に改正されています。そこで今回はこの4月に施行された改正と10月に施行予定の改正について解説します。

【育児】2025年4月施行の改正内容
同法では「子の看護休暇」という法定休暇を定めています。幼い子どもは急な体調変化を起こしやすく、その際に看護する親を支援する制度として導入されました。これにより、子どもの体調変化時にもう1つの法定休暇である「年次有給休暇」を消化しなくて済みます。
取得には一定の条件があります。改正前の同法では
①小学校就学前の子どもを養育する労働者
②病気やケガの看護と子どもの予防接種や健康診断の付き添いが目的
③1年に5日まで(子が2人以上の場合は10日まで)
④労使協定で勤続6か月未満の労働者や週所定労働日数が2日以下の労働者を対象外と定めることが可能、の条件がありました。
4月施行の改正では、
①で小学校就学前から小学校3年生修了時までに延長、
②の目的に「感染症に伴う学級閉鎖等」「入園(入学)式、卒園式」が追加、
④の「勤続6か月未満の労働者の労使協定による除外」を廃止しました。
看護休暇の取得範囲をかなり拡大したことは一目瞭然ですが、「看護休暇なのに入園・入学式・卒園式まで加えるのは、やや変では?」と思う人もいるかもしれません。そこで今回は法律上の文言である「子の看護休暇」を「子の看護等休暇」に名称変更されます。
ちなみに「子の看護等休暇」に関しては対象となる労働者から目的に合致した申し出があった場合に事業主は拒むことができません。また、同法では従来から3歳未満の子どもを養育する労働者では「所定外労働の制限(残業免除)」の請求が可能でしたが、これが4月からは小学校入学前まで延長されました。
一方、育児・介護休業法の第23条1項では、3歳未満の子どもを養育する労働者が希望する場合は短時間勤務(時短勤務)にしなければならないことが定められています。ちなみに対象者は3歳未満の子どもの養育以外に▽時短勤務中は育児休業を取得しない▽平時の1日所定労働時間が6時間超▽日雇い労働者ではない▽予め定めた労使協定で短時間勤務の対象になっていない、のすべてを満たさねばなりません。なお、労使協定により短時間勤務の対象外とできるのは、勤続1年未満、週所定労働日数が2日以下、業務の性質または実施体制上から短時間勤務が困難と認められる業務に従事している労働者とされています。
この規定に定める「業務の性質または実施体制上から短時間勤務が困難と認められる業務に従事している労働者」の場合は、育児休業に関する制度に準ずる措置あるいは始業時刻の変更などの代替措置を用意しなければなりません。始業時刻の変更などは、フレックスタイム制度、時差出勤制度(始業・終業時間の繰り下げ・繰り上げ)、保育施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与(ベビーシッターの手配や費用の援助など)が具体例として挙げられています。
今回の4月施行の改正では、この代替措置に新たに「テレワーク(在宅勤務など)」が加わりました。また、これに伴い今回の改正では事業主には3歳未満の子どもを養育する労働者がテレワークを選択できるように措置を講ずることが努力義務化されます。
一方、各企業で働く労働者が直接的なメリットを得られるものではないものの、同法ではこれまで従業員数1,000人超の企業に対しては、毎事業年度の終了後おおむね3か月以内に、インターネットなど一般人が閲覧できる方法で男性の「育児休業等の取得率」または「育児休業等と育児目的休暇の取得率」を公表する義務がありました。この公表義務が4月から従業員数300人超の企業へと引き下げられます。

【介護】2025年4月施行の改正内容
同法では要介護状態の家族を介護するため、休暇を取得できる「介護休暇制度」を定めています。「介護」というと、高齢の親が対象とのイメージが付きまといがちですが、同法での介護の具体的な対象は「配偶者、父母、子、祖父母、兄弟姉妹、孫、配偶者の父母で同居の有無は問わない」です。なお、「要介護状態」については、概論として「負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態」と定められており、ここでは省きますが具体的に細かな基準が定めています。なお、介護保険制度の要介護認定を援用する場合は、「要介護2」以上となっています。
介護休暇に関しては、対象家族が1人の場合は最大年5日、2人以上の場合は最大年10日まで日・時間単位で取得できます。ちなみに介護休暇というと、直接的に家族を介護する場合と思われがちですが、医療機関(介護施設)への入院・通院(入所・通所)の付き添い・送迎、ケアマネージャーなどとの面談、介護保険や介護サービスなどの手続きなどの場合でも取得可能です。日雇い労働以外の労働者が介護休暇を申請した場合に事業主は原則拒むことはできませんが、これまでは労使協定を締結により、入社6か月未満の労働者と週所定労働日数が2日以下の労働者、は対象外とすることができました。4月改正ではこのうちの入社6か月未満の労働者は労使協定で対象外にできなくなりました。
4月改正では介護休業や介護休暇や所定外労働制限などの介護両立支援制度などの利用申出が円滑に行われるようにするため、事業主は以下の(1)~(4)のいずれかの措置を講じることが義務化されました。
・介護休業・介護両立支援制度等に関する研修の実施
・介護休業・介護両立支援制度等に関する相談体制の整備(相談窓口設置)
・自社の労働者の介護休業取得・介護両立支援制度等の利用の事例の収集・提供
・自社の労働者へ介護休業・介護両立支援制度等の利用促進に関する方針の周知
いずれか1つを行うことは義務ですが、厚生労働省は可能な限り、このうちの複数の措置を行うことが望ましいとしています。
介護離職防止のための個別の周知・意向確認なども4月改正で事業主に義務づけられました。具体的には介護に直面したことを申し出た労働者に対して、事業主は▽介護休業に関する制度、介護両立支援制度などの内容▽介護休業・介護両立支援制度などの申出先(例:人事部など)▽介護休業給付金に関すること、を個別に周知してこれらの利用の意向の確認を行わなければなりません。この際にはこれら制度などの利用を控えさせるような個別周知や意向確認は認められません。個別周知・意向確認の方法については面談(オンライン可)、書面交付、FAX、電子メールなどのいずれかですが、FAX、電子メールなどでの周知・告知は労働者が希望した場合のみと定めています。
これ以外に介護に直面する前の労働者にも、前述の介護に直面した労働者に個別周知する3項目の情報提供が義務づけられました。この情報提供に関しては明確に「労働者が40歳に達する日(誕生日前日)の属する年度(1年間)」あるいは「労働者が40歳に達する日の翌日(誕生日)から1年間」のいずれかの時点で行うと定めています。情報提供方法については、前述の介護に直面した労働者への個別周知や意向確認と同様の4種類で、労働者の意向に関係なくいずれの方法でも構いません。さらにこの情報提供に当たっては、介護休業制度などの制度の趣旨・目的を踏まえて行うことに加え、介護保険制度についても周知することが望ましいとしています。
また、介護に関しては、4月施行の改正で要介護状態の家族を介護する労働者が介護休業を取得していない場合にテレワークを選択できる措置を講じることが努力義務化されました。
2025年10月施行予定の改正内容
10月施行の改正は大きく分けて2点あり、いずれも育児に関するものです。
1点目は「柔軟な働き方を実現するための措置等」で、まず3歳から小学校就学前の子どもを養育する労働者に関して、事業主が①始業時刻等の変更②テレワーク等(10日以上/月)③保育施設の設置運営など④就業しつつ子を養育することを容易にするための休暇(養育両立支援休暇)の付与(10日以上/年)⑤短時間勤務制度、の中から2つ以上の措置を選択して講ずることが義務化されます(②と④は原則時間単位で取得可とする必要あり)。
また、事業主がこの5種類から措置を選択する際は、自社の労働者の過半数以上を組織する組合などからの意見聴取の機会を設ける必要があります。そのうえで対象となる労働者は事業主が講じた措置の中から1つを選択して利用することができます。
また、同措置の個別の周知・意向確認について、3歳未満の子どもを養育する労働者に対して、子どもが3歳の誕生日を迎える1か月前までの1年間(1歳11か月に達する日の翌々日から2歳11か月に達する日の翌日まで)に、事業主が選択した2つ以上の対象措置の内容、対象措置の申出先(例:人事部など)、所定外労働(残業免除)・時間外労働・深夜業の制限に関する制度の周知と制度利用意向の確認を個別に行うことが義務化されます。また、この際には利用を控えさせるような個別周知と意向確認は認められません。個別周知・意向確認の方法は面談(オンライン可)、書面交付、FAX、電子メールなどのいずれかで、FAXと電子メールなどでは労働者が希望した場合のみと定めています。
さらに厚生労働省は、家庭や仕事の状況が変化する場合があることを踏まえ、労働者が選択した制度が適切かを確認することなどを目的に育児休業後の復帰時、短時間勤務や対象措置の利用期間中などにも定期的に対象の労働者と面談を行うことが望ましいとしています。
10月施行の2点目は「仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮」で、労働者本人または配偶者が妊娠・出産を申し出た時と子どもが3歳の誕生日を迎える1か月前までの1年間(1歳11か月に達する日の翌々日から2歳11か月に達する日の翌日まで)に▽勤務時間帯(始業および終業の時刻)▽勤務地(就業の場所)▽両立支援制度等の利用期間▽仕事と育児の両立に資する就業の条件(業務量、労働条件の見直し等)について、個別の意向聴取が義務づけられます。意向聴取時期は前述の2つの時期以外の育児休業後の復帰時や労働者から申出があった時などにも実施することが望ましいとしています。
意向聴取の方法は面談(オンライン可)、書面交付、FAX、電子メールなどのいずれかで、FAX、電子メールなどは労働者が希望した場合のみでです。この意向聴取の結果に基づいた配慮も行わなければなりません。具体例としては勤務地に関係する配置の考慮や業務量の調整 ・労働条件の見直しなどです。さらに子どもに障害がある場合などで労働者が希望する時は短時間勤務制度や子の看護等休暇などの利用可能期間延長、ひとり親家庭の場合で労働者が希望する時は看護等休暇等の付与日数に配慮することが望ましいとしています。

就業規則の改正に漏れがないかなど今一度確認を
ここまで改正内容を紹介してきましたが、3歳未満の子どもを養育している場合の短時間勤務制度の代替措置あるいはその育児、介護のためのテレワーク追加が努力義務であること以外はすべて義務となるため、この義務化項目について各企業は就業規則なども改正しなければなりません。すでに4月施行の項目は法的にスタートしていますが、就業規則の改正に漏れがないかなど今一度確認しましょう。
厚生労働省「育児・介護休業法について」