介護報酬改定の議論が大詰めを迎える中、11月27日に開催された第232回社会保障審議会介護給付費分科会では、高齢者施設での日常的な感染対策に対して次回介護報酬改定で新たな介護報酬を設定する方向で議論が進められました。今回はこの件について解説します。
コロナ禍では感染しても入院できずに施設内療養となるケースが多発
まず、今回のコロナ禍は介護業界には大きな負荷になったことは、まだ記憶に新しいかと思います。2020年初のコロナ禍勃発から間もなく、感染者の中でも高齢者や基礎疾患保有者の致死率が極めて高いことがわかり、春以降の高齢者施設内の感染対策は厳重になりました。当初は個人防護具(PPE)やマスクも十分に入手できず、ごみ捨て用半透明袋を使ったPPE代わりのエプロンなどを使用していた施設もありました。また、入所者の家族の面会は大きく制限を受け、今も厳格な面会制限を継続している施設もあります。
コロナ禍中、特に入所系施設にとって最も深刻だったのは、施設内クラスター発生と病床がひっ迫する中での入所者の入院先の確保だったと思われます。
新型コロナは当初、感染症法上「新型インフルエンザ等感染症」に分類され、様々な医療措置は同法2類感染症相当の対応が取られました。この結果、感染が発覚時は入院が基本とされましたが、もともとの法令に基づく感染症病床は全国でもごくわずかであり、結果としてその他の病院でも受け入れ病床が設置され、最終的には都道府県などが借り上げたホテルなどを利用した宿泊療養施設まで設けられましたが、それでも受け入れが十分にできない状況が発生しました。
結局、厚生労働省は2020年11月22日付の事務連絡で、「医師が入院の必要がないと判断し、かつ、宿泊療養施設(適切な場合は自宅療養)において丁寧な健康観察を行う」として、事実上自宅療養を認めるようになります。
高齢者施設の中でも特養などは終の棲家、いわば自宅同然ですが、この点について明確な言及がされたのは、2021年1月14日付の厚生労働省の事務連絡「病床ひっ迫時における高齢者施設での施設内感染発生時の留意点等について」です。同事務連絡で前提条件付き施設内療養が明文化されました。
同年5月21日付の事務連絡では、高齢者施設での施設内療養を地域医療介護総合確保基金の補助対象に追加し、施設内療養者1人当たり発症から15日間、1日1万円 (上限15万円)の支給を開始。2022年3月17日付の事務連絡では、まん延防止等重点措置や緊急事態宣言が発令された都道府県では、さらに追加で1人あたり最大15万円、当初の支援策と併せて合計最大30万円までの支援金支給が決定しました。同年4月8日からは地域限定が外され、7月末まで全国で施設内療養者1人当たり最大30万円の支援が受けられるようになりました。この措置はその後3度延長され、2023年3月末まで継続しましたが、この間に基本支給期間は有症状者が10日間、無症状者では7日間に短縮が図られました。今年5月の新型コロナの感染症法上の5類への移行後もこの措置は続いてきましたが、10月1日からは通常補助、追加補助とも1日当たり5000円に減額されています。
もっとも5類移行後の現在も新型コロナは高齢者にとって致死率が高い危険な感染症のままでで、各施設では感染対策を継続しています。
2024年改定で新興感染症発生に備えた平時からの対応強化を
今回の分科会ではこの現状を踏まえ、厚生労働省老健局から介護報酬改定に当たって高齢者施設で新興感染症発生に備えた平時からの対応強化に関して新たな施策を盛り込む方向性が示されました。
まず、老健局側は、高齢者施設が平時から新興感染症発生時の体制を構築するため、「感染者の対応を行う協定締結医療機関と連携し、新興感染症発生時等における対応を取り決める」ことを努力義務とする旨を分科会に提案しました。
「協力締結医療機関とは?」と思う方もいるかもしれません。2024年4月から施行される改正感染症法では、都道府県が新興感染症発生時に(1)初期対応(2)入院医療(3)外来医療(4)自宅療養患者などへの往診・訪問診療(5)後方支援(6)医療人材の確保・派遣、などをそれぞれ地元のどの医療機関が担当するかを協議の上で定め、予め協定を締結することを義務化しました。この協定を締結した医療機関が「協定締結医療機関」です。ちなみに2024年度から始まる第8次医療計画では、各都道府県は協定締結医療機関を医療計画に記載することが定められています。
今回提案された努力義務を平たく説明すると、各者施設に協定締結医療機関と(1)~(6)についての取り決めを予め行うよう求めたものです。そしてもし各高齢者施設の協力医療機関がズバリ協力締結医療機関だった場合は、利用者急変時の取り決めを行う中で新興感染症発生時の対応の協議も義務づけることを老健局は提案しています。
感染症や災害が発生した場合の業務継続計画(BCP)策定も
一方、前回の2021年の介護報酬改定では、介護事業者に感染症や災害が発生した場合の業務継続計画(BCP)策定、感染症まん延防止対策の委員会開催や指針整備、研修・訓練(シミュレーション)の実施を義務づけました。これらは3年間の経過措置期間を設けられ、2024年改定以後は全ての介護事業者が対応を完了していなければなりません。
分科会で老健局側は、こうした平時からの基本的な感染対策を、厚労省が策定した教材などを参考に各事業所・施設で継続することを前提に診療報酬の外来感染対策向上加算を参考に新たな介護報酬の創設を提案しました。その算定時の要件についても以下のように提案しています。
・協力締結医療機関との連携体制構築(算定する施設では努力義務ではなく義務)
・協力医療機関と新方コロナも含む感染症発生時の対応を取り決め
・協力医療機関などと連携して軽症者の施設内療養を実施
・ 感染症対策にかかる一定の要件を満たす医療機関や地域医師会が定期的に主催する感染対策に関する研修に参加し、助言や指導を受ける
また、コロナ禍での感染管理専門家による実地指導の取組を参考に、感染対策にかかる一定の要件を満たす医療機関から、施設内で感染者が発生した場合の感染制御などの実地指導を受けることについても介護報酬を新設することが提案されました。
一方、老健局側は、新型コロナのまん延時に各種入所系の介護施設・事業所で、感染者の8割以上が施設内療養を行っていた実態に鑑み、医療機関との連携や適切な感染対策を確保した上で行われる施設内療養にも介護報酬を設定することを提案しました。なお、この場合の対象感染症は、今後のパンデミック発生時などに必要に応じて指定する仕組みをとなる見込みです。
厚生労働省 社会保障審議会介護給付費分科会(第232回)「感染症への対応力強化(改定の方向性)」
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