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【ニュース解説】社会福祉法人の経営状況 2022年度は前年度からさらに悪化

独立行政法人・福祉医療機構(WAM)は3月18日、「2022年度社会福祉法人の経営状況」を公表しました。今回のレポートでは、主たる事業が介護主体法人、保育主体法人、障害主体法人に分けた経営状況の分析結果を示しています。そこで今回はこのうちの介護事業主体法人の経営状況を中心にレポートで示された結果を解説したいと思います。

介護主体の社福法人 物価高騰による経費増の影響が大きく

2021・2022年度の両年度でデータが揃っており、主たる事業が変わらない介護主体法人のサービス活動収益対サービス活動増減差額比率(企業でいう利益率に当たる。以下、サービス活動増減差額比率)は、2022年度が0.7%。前年度の1.8%から1.0ポイント低下しました(小数点第2位の四捨五入あり)。保育主体法人、障害主体法人がそれぞれ前年度比で0.2ポイント、0.8ポイント低下しているのと比べ、介護事業主体法人の経営悪化状況は顕著と言えます。

福祉医療機構「2022 年度 社会福祉法人の経営状況について」より

介護主体法人の人件費率は66.3%で前年度比横ばい、経費率は27.1%で前年度比1.2ポイント上昇しています。人件費率横ばいと経費率上昇は保育主体法人、障害主体法人と同じ傾向ですが、経費率の上昇は保育主体法人、障害主体法人が1.0ポイント以内であることから、ここでも介護主体法人での経営状況の悪化が見て取れます。

経費率の上昇については、ウクライナ戦争勃発後の燃料費を中心とする世界的な物価高で説明が可能です。これに対し、介護主体法人での人件費率の横ばいについては別途説明が必要でしょう。

まず、2022年度の介護主体法人の従事者1人当たり人件費は418万6000円で、前年度比で12万8000万円増加しています。また、従事者1人当たりサービス活動収益は631万4000円で、これも前年度比で19万5000円増加しています。WAMでは人件費(賃金)、収益ともに上昇しているのは処遇改善加算の「成果が着実に表れていると解するべき」と分析しています。これらを見ると、介護主体法人の経営状況の悪化は、物価高騰による経費増の影響が大きいと捉えることができます。

福祉医療機構「2022 年度 社会福祉法人の経営状況について」より

小規模や設立経過年数が長い社福が経営が悪化

さらにWAMでは今回、介護主体法人の経営状況について、事業規模と設立経過年数でのクロス集計に基づいた分析を行っています。事業規模×設立経過年数の分類別でサンプル数にいくらかの偏りはみられるものの、事業規模別で最大区分の「12億円以上」は、設立経過年数区分で差はあるものの、サービス活動増減差額比率は0.2~2.3%のプラスとなっており、一定以上の事業規模では経営が安定化する傾向があると言えます。この点についてWAMでは「それほど高いプラス値ではないことから、事業規模が大きくなれば収益性が高まるとまでは言えないのかもしれない。多数の施設を運営したり、大規模施設を複数運営することで、いずれかの施設が不振であっても、法人全体で何とかカバーしているのが実情ではないだろうか」との見方を示しています。

これに対し、事業規模別の最小区分である「3億円未満」では、設立経過年数で最小区分の「10年未満」でのサービス活動増減差額比率が0.3%プラスだった以外は、0.4~9.3%のマイナスでした。唯一プラスだった「10年未満」では、人件費率が63.9%、従事者1人当たり人件費が6万1000円で、いずれも前述の介護主体法人全体と比べかなり低水準であることから、「業歴が浅ければ職員の勤続年数はおのずと短くなることから、1 人当たりの人件費が一定程度は抑制されていると思われる」(WAM)と解釈されています。

福祉医療機構「2022 年度 社会福祉法人の経営状況について」より

また、全体の傾向として、設立経過年数が長いほうが、経営状況が悪い法人が多いという結果が明らかになっています。とりわけ設立経過年数の最大区分である「50 年以上」では、人件費率が68.3%、従事者1人当たり人件費は444万1000円で、いずれも全体平均を上回っていました。これは「10年未満」と逆に業歴が長くなれば、定期昇給などで1人当たりの人件費が上昇した結果と言えます。WAMではこの点について「その分、経験豊富な職員が充実したサービスを提供していることは想像に難くないが、経験年数を評価する加算だけでは、人件費の増加分を賄えていないのではないだろうか」と分析しています。

なお、今回明らかになった物価高騰の影響については、2023年1月分から経済産業省による電気・ガス価格激変緩和対策事業が実施されています。同事業は2024年5月使用分までの延長が決定しています。このため2022年度決算では、同事業による補助が3か月分しか適用されておらず、通年で補助の影響がある2023年度決算の経費率が改善される可能性があります。

介護主体の社福法人 保育、障害と比較して離職率が高い傾向

また、今回のレポートでは2022年度の人材確保状況の調査分析も公表されています。それによると、社会福祉法人全体では1 法人当たりの従事者数の推移が、2015年度以降一貫して増加してきましたが、2022年度は119.9人で前年度の120.5 人から初めて減少に転じました。福祉業界の最大の経営課題の一つである人材確保難が影響している可能性が考えられます。

直近5か年度でデータが揃っており、主たる事業が変わらない法人で見ると、介護、保育、障害のいずれの主体法人でも、離職率は過去5年度の推移で低下していますが、同時に採用率も年々低下しています。どの事業の主体法人でも採用率、離職率ともに低下幅が大きいのが2020 年度です。これについては、コロナ禍初期に社会全体で雇用の流動化が一時的に停滞し、転職者数が減少したことが福祉分野にも波及したと考えられます。同時に介護職主体法人では2019年に新設された介護職員等特定処遇改善加算により、離職に一定の歯止めがかかった可能性もあります。

ただ、介護主体法人では、最新の2022年度の採用率が14.3%、離職率が14.8%で、離職率が採用率をわずかに上回る結果となりました。保育、障害の主体法人ではまだ採用率が上回っており、これは介護主体法人に特徴的な結果です。同時に介護主体法人の離職率は、保育、障害の主体法人に比べて3ポイント程度高く、介護業界全来での人材の入れ替わりの激しさをうかがわせています。

福祉医療機構「2022 年度 社会福祉法人の経営状況について」

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