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【ニュース解説】この10年で約2倍に増加した有料老人ホーム 国が示した2040年を見据えた「そのあり方」とは

高齢者の増加とともに介護施設の多くが看取りも行う「終の棲家」としての役割が増しています。中でも有料老人ホームは、かつては単に自立した高齢者を受け入れる場と考えられていましたが、今や特別養護老人ホームとの差は狭まり、重度な介護・医療ニーズを有する高齢者を支える重要な役割を担っています 。

有料老人ホームには介護保険制度上の特定施設の指定を受けた介護付き有料老人ホームのほかにも、住宅型有料老人ホームがあり、住宅型でも運営法人や関係法人の介護サービス事業所などと事実上一体となって、介護度の高い高齢者や医療的ケアの必要な高齢者などを受け入れる事業を展開していることもあります。しかし、その役割の拡大と多様化の裏側で、サービスの質の確保、運営の透明性、さらに一部の住宅型有料老人ホームでは入居者に対する過剰な介護サービスの提供、いわゆる「囲い込み」の問題が顕在化してきました。また、昨今では養介護施設従事者などによる虐待判断件数において、「住宅型」有料老人ホームの割合の増加が顕著になっています。

このような現状を踏まえ2023年12月22日に閣議決定された「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」では、有料老人ホームについて「事業実態を把握した上で、より実効的な点検を徹底するとともに、サービス提供の適正化に向けた更なる方策を検討し、必要な対応を行う」ことが明記されました。

これを受けて今年4月から「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」で有料老人ホームの質確保に向けた議論がスタートし、このほどパブリックコメントも経たとりまとめが公表されました。この内容は今後社会保障審議会介護保険部会などでの議論の下敷きになる予定です。そこで今回は「とりまとめ」の要点を解説します。

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有料老人ホームの運営及びサービス提供のあり方

とりまとめでは「有料老人ホームの運営及びサービス提供のあり方」「有料老人ホームの指導監督のあり方」「有料老人ホームにおけるいわゆる『囲い込み』対策のあり方」の3つに分けて、対応の方向性が示されました。

まず、「有料老人ホームの運営及びサービス提供のあり方」では、さらに(1)介護・医療サービスの「質」と「安全」の確保(2)入居者による有料老人ホームやサービスの適切な選択(3)入居者紹介事業の透明性や質の確保(4)有料老人ホームの定義(5)地域毎のニーズや実態を踏まえた介護保険事業(支援)計画の作成に向けた対応、の5つにわけた対応の方向性を示しました。それぞれについて方向性を箇条書きします。

(1)介護・医療サービスの「質」と「安全」の確保

・中重度や医療ケアを要する要介護者、認知症が入居対象、あるいは軽度の高齢者のみが入居しているが中重度以上になっても住み続けられることを謳う有料老人ホームへの登録制などの事前規制の導入
・全ての有料老人ホームに対し、契約書に入居対象者(入居可能な要介護度や医療の必要性、認知症、看取り期の対応の可否)の明記・公表と自治体に提出する事業計画上への記載の義務付け
・一定の有料老人ホームでは、特定施設やサ高住との均衡に配慮しつつ、職員体制や運営体制に関する一定の基準を法令上設定
・併設介護事業所が提供するサービスや職員体制・運営体制との関係が曖昧にならないような基準の設定 
・現行の標準指導指針を基準としつつ、介護・医療ニーズや夜間における火災・災害など緊急時の対応を想定した職員の配置基準、ハード面の設備基準、虐待防止措置、介護事故防止措置や事故報告の実施などについて法令上の基準設定
・看取りまで行う有料老人ホームは看取り指針の整備
・サ高住などの制度も参考に有料老人ホームによる不当な契約解除を禁止するなどの契約関係基準の設定
・特定施設と同様に、認知症ケア、高齢者虐待の防止、身体的拘束などの適正化、介護予防、要介護度に応じた適切な介護技術に関する無資格者への職員研修の実施
・上記基準などの策定に際して自治体ごとに解釈の余地が生じにくい具体的な形で規定の設定
・高齢者本人や家族の相談窓口となる担当者の明確化
・診療報酬上の入退院支援加算の連携の仕組みを参考に地域の医療機関の地域連携室と高齢者住まいの連携の深化促進
・事業者団体による既存の第三者評価の仕組みの一層活用とその制度的位置付けの明確化 

(2)入居者による有料老人ホームやサービスの適切な選択

・契約書や重要事項説明書、ホームページなどで事業者が十分な説明や情報提供を行う体制の整備
・入居希望者に対し契約前に契約書や重要事項説明書の書面での説明・交付の義務付け
・重要事項説明書などで特定施設・「住宅型」有料老人ホームの種別、介護保険施設などとの相違点、要介護度や医療必要度に応じた受入れの可否、入居費用や介護サービスの費用および別途必要となる費用、施設の運営方針、介護・医療・看護スタッフの常駐の有無、看取り指針の策定の有無、退去・解約時の原状回復や精算・返還などに関する説明が確実に行われる体制整備
・有料老人ホームと同一・関連法人の介護事業者によるサービス提供が選択肢として提示される場合、実質的な誘導が行われないよう、中立的かつ正確な説明の担保
・要介護状態や医療処置を必要とする状態になった場合、外部サービスなどを利用した継続居住の可否、看取りの可否、退去要件となるか否かなどの確実な説明の実施
・入居希望者やその家族、ケアマネジャー、医療ソーシャルワーカーなどが活用しやすい有料老人ホームの情報公表システムの整備
・地域ごとにワンストップ型の相談窓口の構築

(3)入居者紹介事業の透明性や質の確保

・現行の紹介事業者届出公表制度を前提に、公益社団法人などが一定の基準を満たした事業者を優良事業者として認定する仕組みの創設 
・紹介事業者やホーム運営事業者が成約時に有料老人ホーム側から支払う紹介手数料受領、紹介手数料の算定方法などを入居希望者に対し事前に書面で明示
・紹介手数料設定を賃貸住宅仲介を参考に月当たりの家賃・管理費などの居住費用をベースに算定
・紹介事業者届出公表制度に基づく情報公表の仕組みの充実で、紹介事業者の業務内容やマッチング方法、紹介可能なエリア、提携する高齢者住まい事業者、紹介手数料の設定方法などを検索可能なシステムを構築

(4)有料老人ホームの定義

・広告提示される「食事の提供」などの用語定義の明確化 

(5)地域毎のニーズや実態を踏まえた介護保険事業(支援)計画の作成に向けた対応

・自治体の介護保険事業(支援)計画策定に当たり、「外付け」の介護サービスが利用されている「住宅型」有料老人ホームに関する情報を把握できる仕組みの構築 
・毎年度提出を求める重要事項説明書から把握可能な情報に加え、簡便な方法で情報を把握する仕組みの構築 
・次期介護保険事業(支援)計画や老人福祉計画の策定のため、高齢者住まいごとの基本情報(定員数や実際の入居者数、特定施設の指定の有無などの情報の一覧)、入居者の要介護度別の人数や割合などの集計情報、高齢者住まいのマッピングなどを市町村独自で把握・整理する仕組みの構築 

以上を概観するとわかりますが、一言で言うと、行政や入居希望者本人や家族に対し、事業者が適切な情報開示をするよう求めていることがわかります。

このようになってしまう原因の一つに有料老人ホームの法的位置づけがあります。現在、有料老人ホームは老人福祉法に基づく都道府県への届出制となっており、参入障壁が低く、実態として未届のホームも存在します。

また、都道府県は国が定めた標準指導指針を参考に策定した自治体指導指針で行政指導を実施できますが、この行政指導には法的な強制力がありません。ホーム側が入居者保護上問題のある運営をしていれば、都道府県は法的強制力がある改善命令や事業停止命令などの行政処分に進むことは法的には認められていますが、処分基準が不明確であるため現実に処分に踏み切ることは困難と言われています。さらに事業停止命令を行う場合、該当するホームの入居者の新たな入居先をどのように確保するかという問題が生じます。

有料老人ホームの参入前後の規制の方向性

今回のとりまとめでは、この有料老人ホームの指導監督について、参入時と参入後の規制の方向性が示されました。

まず、参入時に関しては、中重度、医療ケアが必要、あるいは認知症を有する要介護者を入居対象とする有料老人ホームは、現状の届出制から登録制へと変更する方向性で今後の検討が進められます。また、登録制では、従来の届出制で都道府県へ提出が求められていた重要事項説明書以外にも、介護保険サービスの提供体制の有無、有料老人ホームとサービスの提供主体との関係、財務諸表なども事前に求められる見込みです。

ちなみに有料老人ホームに該当するサービス付高齢者住宅については、すでに高齢者居住安定法に基づき重要事項説明義務や報告事項が課されていることから、新たな登録制導入時には提出が必要な事項に限定し、重複が生じないよう調整される予定です。 

一方、介護保険サービス提供事業所が有料老人ホームを開設する(すなわち同一経営主体)の場合、主たる介護保険サービス事業者などとして協力医療機関の有無やホームで実施される介護サービス費用の自費部分なども含め公表が求められる方向性となります。

さらに現在の標準指導指針については、登録制導入時に老人福祉法に基づく統一的基準として新たに策定される方向性が検討されています。

参入後の規制については、更新制とともに同制度の下で一定の条件を満たさない場合は更新を拒否する仕組みが導入される見込みです。

また、有料老人ホーム関する不正行為などで行政処分を受け、役員などの組織的関与が認められる場合には、一定期間、有料老人ホームの開設を制限する制度の導入も検討が進められます。

さらに経営継続が困難と見込まれるなど問題のある事業者に対しては、迅速な行政処分を可能とするための基準などが検討されますが、この際に問題になるのが、行政処分が事業停止命令だった場合の入居者の転居先です。これまでこの点については事業者の責任が不明確でしたが、行政が連携して事業者が責任を持って対応することを法的に義務付ける見込みです。

有料老人ホームによる入居者の「囲い込み」について

最後に今回の検討会設置の理由の1つでもあった「囲い込み」への対応です。

とりまとめが提案した対応の方向性として、一番の目玉は有料老人ホームの入居契約時に併設・隣接、あるいは同一・関連法人や提携関係などのある介護サービス事業所やケアマネ事業所の利用を契約条件とすることやこれらの介護サービスを利用する場合に家賃優遇などの条件付けを行うこと、かかりつけ医やケアマネジャーの変更を強要することを禁止する措置の新設です。

また、事業者に対し、入居契約とケアマネジメント契約の独立し、契約締結やケアプラン作成の順番といったプロセスにかかる手順書やガイドラインをまとめさせ、入居希望者に対して明示させるとともに、これら手順書やガイドライン通りに契約締結が行われているかを行政が事後チェックできる仕組みの構築も謳っています。 

一方、自治体による実態把握をより効果的に行えるようにするため、有料老人ホームと併設・隣接する介護サービス事業所が同一・関連法人、もしくは提携関係などにある場合は、▽有料老人ホームが介護サービス事業所などの状況を事前に行政に報告・公表▽有料老人ホームの事業部門の会計と介護サービスなど部門の会計を内訳や収支も含め分離独立して公表、を求める方針を示しています。 

このように検討会が示した方向性はかなり厳しいものです。通常、こうしたとりまとめが法制度化されるまでは紆余曲折があり、最終段階ではとりまとめの内容からある程度緩和されたものになりがちですが、今回は必ずしもそうなるとは限りません。これは有料老人ホーム業界内でも囲い込みなどについては問題視する声が多く、さらにいえば業界の政治力が大きいものではないからです。むしろこうした流れを先取りして法人のガバナンス改善に取り組むことの方が得策と言えるでしょう。

厚生労働省は「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」

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