近年、「働き方改革」というキーワードがあらゆる業界で叫ばれています。しかし、このキーワードはどちらかというと人手が充足している業界の話と思われている方がいるかもしれません。しかし、人手不足が深刻化している業界の一つである、介護業界こそむしろ多様な働き方の選択肢を用意することが今後の人材確保の要と言えるでしょう。そうした背景の中、一部で行われている試みが「週休3日制」の導入です。
週休3日制で夜勤の疲労を日勤に残させない
もっとも介護業界の場合は夜勤があるため、単純に休みを増やせば、人手不足が一層深刻化するだけです。このため週休3日制度を導入している多くの介護施設が、「1日8時間・週5日勤務」から「1日約10時間・週4日勤務」という形に移行させ、総労働時間を維持して休みを増やすという形態です。
一見すると、「朝三暮四」に見えるかもしれません。しかし、一般的な週休2日制度の場合、業界を問わず、休日のうち1日は必要不可欠な私用の処理に丸々費やしてしまっているケースは多いのではないでしょうか。さらに人手不足の介護業界の場合、昼休みも休めているようで休めていないケースをよく耳にします。他の業界以上に週休2日のうち1日が必須の使用で完全につぶれてしまい、本当の意味での休みにはなっていないケースが多数あるでことは想像に難くありません。
また、介護業界の場合は夜勤がつきものなので、週休2日であっても休暇が2日連続ではない場合、余計のこと疲労回復すらままならないのではないでしょうか。
加算取得などにも影響あり 慎重な検討が必要な場合も
週休3日制度はライフ・ワーク・バランスの取りやすい制度と言えるでしょう。厚生労働省では週休3日制度の活用が考えられる具体的なケースとして▽育児、介護、病気治療などのため勤務日を減らしたい方の定着▽大学院などでの学び直し、ボランティア等を希望する方のモチベーション向上▽地方兼業や副業の促進を通じた人材多様化▽働きやすい職場のアピール、採用競争力の強化、などをあげています。
週休3日制導入後に施設入所者の通院に付き添う看護師などではシフトを組むことが難しくなり、看護師のみは週休3日制をやめてしまった実例などもあります。そのためこのような新たな働き方の導入に当たっては、必ず事前に職員へのヒアリングなどを入念に行うことで、職員の現状の希望や現在の働き方の実態を正確に把握した上で、制度の設計や導入の是非を検討する必要があります。また、介護業界の場合は加算取得などの関係から管理者など常勤者がいなければならない職種もあるため、週休3日制度の導入に当たっては代替人員が存在するか否かなども検討が必要なことは言うまでもありません。
週休3日制を導入した社会福祉法人太樹会・和里の事例
一方で、総労働時間を短縮した週休3日制の導入も一つの方策ではあります。実際にこうした制度を導入しているケースもあります。厚生労働省のサイトでは奈良県大和高田市の社会福祉法人太樹会・和里(にこり)の事例が紹介されています。
和里では2019年から正社員の中に勤務時間限定正社員制度を導入し、
・1日7時間で週5日勤務
・1日6時間で週5日勤務
・1日8時間で週4日勤務(短日勤務)
の3種類の働き方を選択できるようにしています。
このような制度を和里で導入したのは、離職を防ぎ、長く働き続けてもらうことを目的に社員との座談会やアンケートなどを実施した結果、子育て中の社員から、保育園や学校等への送り迎えをしながら残業や夜勤に対応することは難しいという意見が多数出たことがきっかけとのこと。
現在、同制度では人事考査で一定以上の評価を受けている正社員、さらに一定以上の経験がある非正規雇用労働者が応募できる仕組みとなっています。制度利用期間に上限はなく、制度利用の理由は問わないとしています。
なお、基本給に関しては、正社員と比較した労働時間比で減額されますが、賞与評価、役職手当、資格手当、昇進の上限などは正社員と差はありません。同制度については、求人応募者から高評価を受けているようです。
働きやすい職場のアピール、採用競争力の強化にも
週休3日制度は現役世代のライフ・ワーク・バランスを考慮した結果生まれてきたものですが、今後また別の意味で脚光を浴びる可能性があります。というのも国では現在、人口の高齢化と若年現役世代の減少を念頭に、人材が不足する介護業界ではより体力のある高齢人材も含めた幅広い人材活用を推奨し始めています。
高齢人材の場合、働く意欲や一定の体力があったとしてもやはり現役世代との差は否定できません。しかし、週休3日制度を導入するならば、高齢人材の活用余地は広がります。 これらを総合すると、週休3日制度は「働きやすい職場のアピール、採用競争力の強化」という点ではより優位性の高い制度と言えるでしょう。
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