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【ニュース解説】看護職員の人材確保 地域ごとの差が顕著に

介護業界にとっては介護職員不足とともに深刻なのが看護職員不足です。今回はこの夏に厚生労働省の労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会で示された看護職員の需給とその見通しについて解説します。

2020年には173.4万人が看護職員として就業

地域包括ケアの完成目標年度となっている2025年の看護職員需要推計値は、2019年の「医療従事者の需給に関する検討会看護職員需給分科会中間とりまとめ)」で180万1000人と予想されていました。

これに対して実態は、2020年時点で173万4000人となっています。この数字は厚生労働省の「医療施設(静態)調査」や「衛生行政報告例(隔年報)」から集計されたもので、医療機関勤務の看護職員数は前者から、それ以外の看護職員数は後者から算出し、それを合計したものです。

厚生労働省 医政局「看護職員確保の取組について」 より

国は将来的な看護職員不足を見越して1992年に看護師等人材確保法を制定し、看護職員の確保に努めてきました。結果として1990年の83万4000人から30年間で看護職員数は倍増しました。ただ、2016年から2020年までの看護職員増加数は7万4000人なので、この増加速度から考えると、2025年の需給予測には達するか否か微妙な状況です。

一方、厚生労働省の「職業安定業務統計」によると、2018~2022年度の各年度の看護師・准看護師の有効求人倍率は常に2.0超で、最新の2022年度は2.20倍。全職種での有効求人倍率が1.19なので、明確な売り手市場です。

これらを総合すると、現下の情勢は看護職員不足の傾向にあると言えます。

首都圏、東海圏、近畿圏で看護職員が不足する見通し

都道府県別の看護職員の需給状況を、2020年の供給数÷2025年需要予測数で見てみます。この数字が1.0を超えている場合は看護職員が充足、切る場合は看護職員が不足となります。

1.0以上は甲信越、中国、四国、九州を中心に31県。最も充足度が高いのは佐賀県の1.2228、次いで宮崎県の1.2213、島根県の1.1701など。

逆に不足気味の0.9以上1.0未満が8県、0.9未満が8都道府県です。不足するのは首都圏、東海圏、近畿圏などに集中し、最低は神奈川県の0.8220、次いで大阪府の0.8297、千葉県の0.8342などです。これ以外で0.9未満は北海道、東京都、埼玉県、京都府、奈良県、0.9以上1.0未満は宮城県、福島県、茨城県、愛知県、兵庫県、福岡県、大分県です。このうち大分県に関しては、2016年の供給数をベースにした充足度では1.0を超えているものの、2020年時点では1.0未満に転落しています。

厚生労働省 医政局「看護職員確保の取組について」 より

訪問看護ステーションでの人材需要は依然として高い

もっとも看護職員の場合、勤務する職場の幅が広いため、具体的に今後どの領域(職場)でとりわけ不足するかが気になるところです。前述の2025年の需要推計では、領域別の需要も算出していますが、それによると医療機関(病院+有床診療所+精神病床+無床診療所)は2020年実数比で5000人、保健所・市町村・学校養成所等では2000人、それぞれ需要が増加すると見込まれています。これらについては既存の看護職員増加ペースの範囲内で供給が満たせると考えられます。

一方で需要が急増するのは、訪問看護ステーションで2025年需要推計は11万3000人で、2020年実数比で4万5000人の増加が必要。また、介護保険サービス等の2025年需要推計は18万7000人で、2020年実数比で1万4000人の増加が必要になります。

この点は昨今の有効求人倍率からも明らかです。日本看護協会の「2021年度ナースセンター登録データに基づく看護職の求職・求人・就職に関する分析」によると、領域(職場)別の有効求人倍率は、訪問看護ステーションが3.22倍と断トツのトップで、2位の200床未満の病院の1.80倍を大きく引き離しています。ちなみに介護保険サービスでは、介護老人福祉施設(特養)が1.13倍、ケアハウス・グループホーム・有料老人ホームが1.04倍、介護老人保健施設が0.93倍です。

厚生労働省 医政局「看護職員確保の取組について」 より

人材不足が顕著な領域での確保、専門性の高い看護職員養成が軸に

さてこのような現状から2024年からスタートした第8次医療計画では、前述のように都道府県単位で看護職員が不足するケースや、都道府県単位では充足しているものの2次医療圏レベルで不足傾向があるケースは、地域ごとの課題を洗い出し、それに応じた看護職員確保対策の推進を謳っています。

推進策の柱は(1)新規養成支援(2)復職支援(3)定着促進の3つです。これらは従来から行われてきたことでもあり、(1)は養成機関や社会人経験者の看護職員転職へ向けた専門研修への財政的支援、(2)は都道府県ナースセンターによる無料職業紹介による潜在看護師の復職支援のほか、看護職員自身がマイナポータルを通じてキャリア歴などを登録する「看護職キャリアデータベース」を都道府県ナースセンターが活用する復職支援も今年度中に始まります。(1)は地域医療介護総合確保基金を利用して行われますが、同時に同基金を活用し、(3)に関わる院内仮眠室・院内保育施設などの設置といった職場環境整備への補助も実施されます。

なお、前述の訪問看護ステーションの人員確保では、(1)の一環として機能強化型訪問看護ステーションの設置支援、訪問看護を行う看護職員の利用者・家族からの暴力・ハラスメント対策のセキュリティ確保に必要な防犯機器の整備経費の支援も行われます。

また、第8次医療計画がこれまでと異なるのはコロナ禍を経たという点です。これまでの医療計画では、感染症対策はほとんど触れられてきませんでした。しかし、これだけ大規模なパンデミックを経験し、とくに高齢者では重症化対応など高度な医療提供が求められたため、特定行為研修修了者など専門性の高い看護職員を養成する重要性が高まっています。

以上を総合すると、今後の看護職員確保対策は、大都市圏や訪問看護ステーションなど人材不足が顕著な領域での確保、専門性の高い看護職員養成が軸になる見通しです。

これらは介護業界にとって対岸のことに思えるかもしれません。しかし、訪問看護ステーションや病院での看護職員確保策が強化されるということは、介護業界よりも財務基盤が強いこれら施設が高待遇などを設定した場合、介護業界は後塵を拝することになるでしょう。訪問看護ステーション、病院との看護職員争奪の三つ巴戦が激しくなるのは確実です。

すでに看護職員争奪戦の火蓋は切って落とされたとの認識が必要です。

厚生労働省 医政局「看護職員確保の取組について」

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