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【ニュース解説】高齢者の転倒「段差につまずいたとき」「立ち上がったとき」に多く

高齢者と接する介護従事者にとって一番避けなければならないことは、転倒などによるケガや誤嚥などであることは論を待たないでしょう。しかし、こうしたアクシデントの実態は、当事者、家族、介護従事者が後ろめたさを感じていることもあり、なかなか表には出てきません。

そうした中で消費者庁新未来創造戦略本部が4月に「高齢者の事故防止等に関するアンケート調査報告書」を公表しました。同報告書は、75歳以上でかつ要介護1~3の認定を受けている人(以下、要介護後期高齢者)との同居者または同居経験者を対象に、家庭内や通所介護(デイサービス)利用中のケガなどの事故発生状況を調査した結果をまとめたものです。調査は2004年10月31日~11月14日に、過去2年間で要介護後期高齢者との同居者または同居経験者1,000人(回答者に 75 歳以上の要介護者ごと最大2人までとして回答を得たため、回答数の対象となった要介護後期高齢者は1,051人)を対象にインターネットを通じて行っています。報告書からはどのようなシーンで高齢者での事故が発生しやすいかがわかります。今回はこの内容を解説します。

屋内では「居間」「寝室」「廊下」屋外では「道路」「自宅の庭」「階段」で転倒多く

「けがをした、またはしそうになった」経験(複数回答)については、屋内、屋外のどの環境でも「つまずく、転ぶ、よろめく」の割合が突出して高い結果となりました。屋内外のいずれのシーンでも「つまずく、転ぶ、よろめく」は、これに次いで多かった「ぶつかる・当たる・接触する」の2~3倍の発生頻度でした。

実際の「つまずく、転ぶ、よろめく」の発生頻度は、屋内では「居間」が46.2%、「寝室」が42.3%、「廊下」が40.8%、「玄関」が39.7%、「風呂場」が32.4%、「トイレ」が30.6%、「台所・食堂」が27.5%など。屋外では「道路」が39.0%、「自宅の庭」が29.0%、「階段(屋外)」が28.2%、「病院」が27.6%、「店舗商業施設」が24.2%、「公共交通機関利用時」が18.3%、「公園」が16.2%などでした。

消費者庁新未来創造戦略本部「高齢者の事故防止等に関するアンケート調査報告書」 より

「段差につまずいたとき」「立ち上がったとき」が転倒の主なきっかけ

また、「つまずく、転ぶ、よろめく」、「落ちる」、「ぶつかる・当たる・接触する」については、その後の転帰(複数回答)も調査しています。それによると、「つまずく、転ぶ、よろめく」の結果として、「打撲」が43.9%、「擦り傷」が32.1%、「骨折」が30.7%などでした。「つまずく、転ぶ、よろめく」による骨折の発生頻度は、「落ちる」、「ぶつかる・当たる・接触する」の2~3倍も高いことも明らかになりました。

消費者庁新未来創造戦略本部「高齢者の事故防止等に関するアンケート調査報告書」 より

これらの数字を見ると、全体として屋外でのけがの経験は、屋内の環境と比べると割合が低いことがわかります。この点について報告書では「アンケート調査だけでは分析できないが、要介護高齢者においては外出機会が減り、あるいは外出したとしても介護者がついていることによって、こういった場所での事故件数自体は少ない結果となった可能性がある」との見方を示しています。

ちなみにデイサービスを利用している、あるいは利用していたとの回答者に、サービス利用時にけが、あるいはけがをしそうになった経験を尋ねた結果でも、最多は、「つまずく、転ぶ、よろめく」が44.5%。次いで「ぶつかる・当たる・接触する」(18.0%)でした。

また、「つまずく、転ぶ、よろめく」、「落ちる」という経験をした人を対象にどのような状況でそのようになったかを尋ねた結果(複数回答)では、最多は「段差につまずいたとき」が67.1%、次いで「立ち上がったとき」が46.8%で、この2つのシーンが他と比べ突出して高くなっていました。

消費者庁新未来創造戦略本部「高齢者の事故防止等に関するアンケート調査報告書」 より

一方、高齢者の事故として注意しなければならないのが誤嚥です。厚生労働省の令和4年の「人口動態統計」によると、「その他の不慮の窒息」のうち「気道閉塞を生じた食物の誤えん」による死亡者数は4696人で、うち9割以上の4297 人が65歳以上の高齢者です。今回の報告書では、「居間」、「台所・食堂」で「けがをした、またはしそうになった」経験の中で「食品・薬などをのどに詰まらせる」がそれぞれ12.5%、10.8%あったことがわかっています。

施設系介護サービスでは居室周辺の再点検を

このように考えると、要介護後期高齢者では屋内の事故、あるいは屋外でも自宅に近い場所での事故が多く、これを減らすことが重要です。これを施設系介護サービスで考えた場合は居室周辺となります。

転倒に関する基本対策は自宅・居室のバリアフリー化が柱と言えますが、その点をかなり考慮していると思われるデイサービス施設の利用者でも、前述のように半数弱が転倒リスクを経験していることを考えると、バリアフリーのみでは事故を防ぎきれない可能性も浮かび上がっています。また、高齢者が1人でいる時に事故が起きやすいことが知られていますが、常時誰かが付いているわけにもいかないのが実状です。

その意味で今回の報告書内の記述で参考になるのが、徳島県介護支援専門員協会に依頼して介護支援専門員や看護師などに行った要介護者の転倒や食事中の事故を中心とするヒアリング調査結果です。

この自由回答からは転倒に関しては「転倒しても大きなけがにしないようにするため、高さの低いベッド(超低床ベッドなど)や周囲に敷くクッション材等の使用」「施設では、理学療法士が福祉用具の杖の高さやじゅうたんの設計を評価することで事前に転倒防止ができる」などの記述があります。ヒアリング調査での誤嚥に関する自由回答では「在宅介護でも体の位置や動かし方、食品の形状のアドバイスはしている(食品を小さく刻むなど)。誤えんしにくくなるような食事用具等もあるので、パンフレットで紹介したりしている」「1日3食ではなく、少量にして複数回の食事をとらせると誤えん防止となる」「介護の現場では、昼なら口腔体操・えん下体操を実施」などの指摘もあります。

こうした対策すべてをすぐにできるケースばかりではありませんが、まずはできるところから始めることが肝要と言えます。

消費者庁新未来創造戦略本部「高齢者の事故防止等に関するアンケート調査報告書」

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