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【ニュース解説】高齢者に対する帯状疱疹ワクチン 2025年4月から定期接種化

厚生労働省は今年4月から高齢者に対する帯状疱疹ワクチンを定期接種化する方針を固めました。今回はこの件について解説します。

帯状疱疹については多くの人が一度は耳にしたことがあると思います。帯状疱疹を引き起こすのは水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)ですが、帯状疱疹そのものは厳密な意味での感染症とはいえません。

その名の通り、このウイルスは幼児期などに多い水痘、いわゆる水ぼうそう(以下は水ぼうそうで表記)の原因ウイルスです。水ぼうそうは空気感染、飛沫感染、接触感染を通じて感染すると、皮膚の表面が赤くなり(紅斑)、そこにブヨブヨとした水疱、いわゆる水ぶくれができる感染症です。水ぶくれの中身は次第に膿となって(膿疱)となって、最後はかさぶたになって剥がれ落ちて治ります。ただ、治った後もウイルスは体内から消えず、背骨付近や脳の神経に症状を起こさずに潜伏し続けます。

この潜伏したウイルスは加齢、疲労、ストレス、何らかの免疫機能の低下が原因で再活性化して、神経にそって皮膚の表面に再び水疱を作ります。これが帯状疱疹です。神経に沿って体の左右のどちらか帯状に水疱を作るため「帯状疱疹」という名称がついています。

帯状疱疹では、ウイルスが皮膚と神経の両方で増殖して炎症を起こすため、皮膚の水ぶくれ以外に神経損傷に伴う強い痛みが起こります。痛みの程度は個人差もありますが、「眠れないほど」「のたうち回るほど」の痛みを感じる人も少なくありません。

なお、帯状疱疹を発症した人が別の人に帯状疱疹そのものをうつすことはありませんが、水ぼうそうにかかったことがない人に接触した場合はその人に水ぼうそうを起こすことがあります。

帯状疱疹の厄介な点は炎症により起こる神経損傷で、帯状疱疹後神経痛(PHN)に代表される合併症が長期間続く人が少なくないことです。また、顔面に帯状疱疹ができた場合は、顔面神経麻痺や聴力低下などを症状とするラムゼイ・ハント症候群と呼ばれる合併症が起こることもあります。ラムゼイ・ハント症候群になると、自然に治る人は6割程度で、残る4割の人では顔面神経麻痺や聴力低下の症状がほぼ生涯残り続けます。

帯状疱疹 発症のピークは70歳代

国内の疫学調査によると、帯状疱疹の罹患率は1000人当たりで年間3.61~6.50人と言われていますが、年齢とともにこの数字は上昇し、発症のピークは70歳代の1000人当たり年間10.45人で、80歳以上でも約8.0~9.0人です。推計では、水ぼうそうにかかった人の約半数が85歳までに帯状疱疹を経験するといわれています。また、高齢者ほど合併症のリスクが増加し、PHNの発症率は10~50%に達するとの報告があります。

日本は現在でも先進国有数の高齢化率となっており、これ以後の高齢化進展も確実ですから、帯状疱疹発症者とそれに伴う合併症の発症者数の増加は必至です。とりわけ合併症は患者のQOLを大きく低下させ、長期に渡れば介護の負荷も増えることにつながります。その意味で帯状疱疹とその合併症の予防は、日本社会では極めて重要な命題の1つです。

しかし、2016年までは有効な予防対策はなく、この年に初めて小児に使用される水ぼうそうワクチンを帯状疱疹の予防目的でも接種できるようになりました。もっよもその効果は限定的で、2018年にようやく帯状疱疹に特化した有効性の高いワクチンが承認されました。今回の定期接種化はこの新たなワクチンの登場も背景にあります。

帯状疱疹ワクチンの定期接種の概要

今春から開始される帯状疱疹ワクチンの定期接種は、予防接種法に定めるB類疾病としての取り扱いになりました。現在、予防接種法で定める定期接種は、A類疾病とB類疾病があり、A類疾病は蔓延時に社会へのインパクトや感染者の重症化リスクが高い感染症が分類され、規定された接種対象者全員に法的な努力義務があり、ワクチンの接種費用は全額公費負担です。

これに対し、B類疾病はあくまで個人の発症・重症化予防を前提に対象者内で希望者に対して実施し、法的に接種の努力義務はなく、接種費用は市区町村が一部を負担し、接種希望者にも個人負担が生じます。

現在使われている帯状疱疹予防のワクチンは、従来から水ぼうそう予防のために使われている乾燥弱毒生ワクチンと帯状疱疹に特化して承認された乾燥組換えワクチンの2種類があります。前者は生きた水痘・帯状疱疹ウイルスの毒性を弱めたものを使ったワクチン、後者は遺伝子組換え技術で製造した帯状疱疹ウイルスの表面に存在する糖タンパク質Eを使ったワクチンです。

前者は1回接種、後者は2ヶ月間隔で2回接種となっています。また、価格も異なり、全額自己負担の場合は前者が約8000円、後者が約4万円とかなり高額です。現状では定期接種化での接種希望者の自己負担額がどの程度かは決まっていませんが、接種費用の3割程度と言われています。現在すでに帯状疱疹ワクチンの接種に対して独自の助成金を交付している自治体もありますが、その多くは接種費用の5割であることから、定期接種化で対象者はより安価な接種が可能になる見込みです。

なお、定期接種対象者は原則として65歳の人、あるいは60~64歳の人でヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染して免疫機能に障害がある人です。高齢者を65歳に限定したのは、帯状疱疹の発症ピークとワクチンの効果持続期間を考慮した結果です。

ただ、それ以外の高齢者でも発症リスクが高く、ワクチンの有効性も加齢で低下しないことから、今年度の定期接種開始から5年間の経過措置を設け、毎年5歳刻みの年齢(70、75、80、85、90、95、100歳)に達した人は定期接種対象者になります。さらに今年度に関しては現時点で100歳以上の人はすべて対象者とする予定です。

さて対象者が2種類のワクチンのどちらを選ぶかは、接種を行う医療機関のワクチン在庫状況にも左右されますが、それぞれのワクチンを製造する企業は十分な供給量があると表明していることから、最終的には接種希望者個人の選択に委ねられると言えます。

ただ、医学的に選択が制限される人もいます。具体的には前述のHIV感染も含めて医学的に免疫機能が低下する病気にかかっている人、あるいは何らかの病気で免疫を抑制する薬を処方されている人です。生ワクチンは毒性を低下させたとはいえ、生きたウイルスを使っているため、これらの人に生ワクチンを接種した場合は含まれているウイルスにより水ぼうそうや帯状疱疹の症状が出る可能性が高いからです。つまりこれらの人たちは乾燥組み換えワクチンしか選択できません。

ワクチンの有効率、持続期間は?

それぞれのワクチンの有効率については、日本国内での臨床試験結果から弱毒生ワクチンは50歳以上に対する帯状疱疹発症予防効果が27.8%、PHN発症予防効果が73.8%、乾燥組換えワクチンは帯状疱疹発症予防効果が50歳以上で97.2%、70歳以上で89.8%、PHN発症予防効果は70歳以上で88.8%と報告されています。

ワクチンの効果の持続期間は、これまでの研究結果から弱毒生ワクチンが接種後4~7年間、乾燥組換えワクチンは約10年とわかっています。

なお、臨床試験での副反応の発現率は、弱毒生ワクチンは50歳以上で50.6%。そのほとんどが注射部位の腫れや赤み、痛みです。乾燥組換えワクチンは同じく50歳以上で注射部位の腫れや痛みなどの局所副反応が81.5%、筋肉痛や疲労、頭痛などの全身性副反応が58.2%でした。

実際に接種する場合は、主治医と相談のうえで自分の年齢、それぞれのワクチンの有効性とその持続期間、副反応を鑑みて決定するのが最良と思われます。

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