
軽度認知障害(略称・MCI)は、端的に言うならば、認知症の前段階です。とはいえ、認知症とどう違うのかは、ややわかりにくい部分もあります。

軽度認知障害=物忘れが増えているものの、日常生活はほぼ問題なく送れている状態
そもそも認知症の前段階に関しては、さまざまな研究者や組織から独自の定義・概念が提唱され、それらが乱立してきた歴史があります。そうした中で2003年にスウェーデンのストックホルムで開催された認知症のオピニオンリーダーによるMCIキーシンポジウムで、MCIの大まかな診断基準が提唱されました。
この基準を要約すると、▽認知機能が正常ではないが認知症の診断基準を満たさない▽本人や第三者からの申告や客観的認知検査で認知機能の障害が認められるand/or 客観的認知検査で経時的に悪化が認められる▽基本的な日常生活は保たれ、複雑な日常生活機能の障害が軽度、というものです。
もっとざっくり言うならば、「明らかに物忘れが増えているものの、日常生活はほぼ問題なく送れている状態」です。
軽度認知障害(MCI)の症状
MCIに伴う症状の具体例を挙げると以下のようなものになります。
・直近の出来事を完全に忘れることが増えた
・それまで使えていた機器などの操作方法を周囲に尋ねるようになった
・会話の中で固有名詞などを思い出せず「あれ」「これ」など多用するようになった
・私物の置き場所を忘れる頻度が増えた
・ささいなことで感情的になることが増えた
・買い物の会計で計算ミスをするようになった
・慣れ親しんだ道順を間違えるようになった
・いままで覚えていた重症な記念日や家族の誕生日を忘れるようになった
・今までやっていた家事にかかる時間が長くなった
このように周囲だけでなく本人から見てもおかしいと思う状況が増えたものの、食事、トイレ、入浴、着衣・脱衣などの日常生活動作にはほとんど問題なく、当然ながら介護も必要ではない状態です。
軽度認知障害(MCI)の有病率
5歳以上の高齢者でのMCIの有病率についてはさまざまな報告があり、日本認知症学会が公表している「認知症診療ガイドライン2017」では、「おおむね15~25%程度」と記述しています。
内閣府に設置された認知症施策推進関係者会議で2024年5月8日に公表された最新の認知症患者の将来推計では、国内の65歳以上でのMCIの有病率をMCIが15.5%として推計値を公表しました。それによるとMCI患者は、2025年が564万3000人、2050年が631万2000人となっています。2025年時点での同推計の認知症患者との合計は約1036万人で、ここから試算すると、現状では65歳以上の高齢者の3~4人に1人が認知症あるいはMCIということになります。
必ずしも MCI=認知症の前段階 ではない
さてMCI患者については、そのまま認知症へと進行するだけでなく、この状態からほぼ正常に戻る人もいることが分かっています。MCI患者からそのまま認知症患者へと移行する確率は1年間で5~15%、逆に正常へと回復するのは1年間で16~41%と報告されています。
もっとも「MCI患者から正常へと回復」するのが、単に一時的にMCIと誤診されていたのか、それとも実際にMCIから正常に戻るという病態があるのかは、まだはっきりとはわかっていません。
ただ、従来から認知症を発症した人でも、バランスの良い食事、規則正しい生活習慣、適度な運動、外部との積極的な交流などにより進行が遅くなることが報告されているため、MCIから認知症への進行を事実上予防できる可能性が指摘されています。