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認知症のBPSD(行動・心理症状)とは(2)主なBPSDの症状 ~シリーズ 認知症を学ぶ

BPSDは主に4つの症状に分類されます。

活動亢進(活動が活発になりすぎる)に関わる症状

具体的には興奮したり怒りっぽくなったりする症状で、さらに「焦燥性興奮」「易刺激性」「脱抑制」「異常行動」の主に4つに分類されます。

「焦燥性興奮」は、落ち着きがなくなり、イライラして興奮状態になることです。例えば、じっと座っていられずに歩き回ったり、大声を出したり、手をバタバタと動かしたりします。これは、物忘れがひどくなったことを本人が自覚し、「何かおかしい」「不安だ」という気持ちが強くなることから始まることが多いと言われています。

「易刺激性」は、些細なことでも怒りやすくなったり、不機嫌になったりする症状です。普段なら気にならないような小さな音や、家族の何気ない言葉に対して、強く反応してしまいます。例えば、テレビの音量を少し上げただけで「うるさい!」と怒ったり、「お薬を飲みましょう」と言われただけで機嫌を損ねたりします。

「脱抑制」は、今まで我慢できていたことができなくなったり、場面に応じた適切な行動ができなくなったりすることです。例えば、人前で大きな声で話したり、他人の物を勝手に取ったり、不適切な場所で服を脱いだりするような行動が見られます。前頭側頭型認知症ではかなり早期からこの症状が認められます。

「異常行動」は主に徘徊と攻撃的行動があります。徘徊は時間や場所、人がわからなくなる「見当識」の中でも地誌的見当識が低下し、自宅を自分自身で認識できない健忘などを背景として起こります。攻撃的行動は見当識が低下した状態や妄想が出現した状態など多様な状況で発生します。具体例を挙げると、周囲にいる人が誰かがわからなくなっている状態で入浴介助の際に人に体を触られると、「知らない人に気安く体を触られている」と思い込み、相手を叩くなどの事例が該当します。

精神病様症状

具体的な症状としては幻覚や妄想、夜間異常行動があります。

「妄想」は、事実ではないことを強く信じ込んでしまい、周囲がいくら説明しても考えを変えない状態ですが、認知症患者ではアルツハイマー型認知症を中心によく見られる「物盗られ妄想」が典型例の1つと言えます。

「物盗られ妄想」は、財布や大切な物をしまった場所を忘れてしまう中核症状の健忘が発端となり、「誰かが盗んだ」と思い込んでしまいます。特に、身近にいる家族、中でも主に世話をしてくれる配偶者などの家族を疑うことが多く、「あの人が私の財布を盗んだ」と訴えます。

また、よくあるのは「被害妄想」です。家族同士、あるいは家族と介護従事者が小声で話していると、「悪口を言っている」「家族が自分をいじめている」などと考えてしまいます。

これ以外には「見捨てられ妄想」というものもあり、認知機能がまだある程度保たれている状態で起こりがちと言われています。たとえば施設に入所した際に家族に見捨てられたと思い込む、自分ができることが減って介護者を頼ることが増えると自分は周囲に迷惑をかけていると考え、自分が邪魔者、引いては見捨てられていると思い込むなどです。

「幻覚」は実際にはないものが見えたり聞こえたりすることですが、実際には見えないものが見える「幻視」は、レビー小体型認知症でよく見られるものの、同型の認知症ではこれは中核症状になります。むしろレビー小体型認知症ではこうした幻視などがもとで、いないはずの同居人がいると言い始め、その架空の同居人の存在をベースにした同居人妄想などを起こします。

「夜間行動異常」は、夜中に起きて活動したり、昼夜が逆転したりすることです。例えば、夜中に「仕事に行く」と言って外出しようとしたり、夜間に大声で話したりします。なお、レビー小体型認知症ではレム期睡眠行動異常と呼ばれる症状が起こることがありますが、これはBPSDではなく中核症状に分類されます。

感情障害(気分の落ち込みや不安)に関わる症状

この領域で最も典型なのは不安とうつの症状です。

一般的にアルツハイマー型認知症では、その前段階である軽度認知障害(MCI)の時期から不安症状が認められます。これは認知機能が一定程度保たれているため、病的な記憶障害を自分自身で自覚できることが最大の要因と言われています。実際、MCIの患者では、同年代の健常者よりも不安症状を有する割合は多いとされています。同時にMCIでの不安症状は、アルツハイマー型認知症進行の独立したリスク因子とも報告されています。

また、この不安への初期の対応を間違えると、活動亢進に関わる症状である焦燥性興奮や同じ感情障害であるうつ状態につながる危険性があります。

一方、うつ状態はアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症では、比較的早期から認められます。レビー主体型認知症ではうつ状態を初発に診断される事例もあるほどです。

これは不安と同様に発症早期の場合は、低下しているとはいえ一定程度認知機能が保たれているため、「自分は役に立たない人間だ」「みんなに迷惑をかけている」といった自責感が強くなり、このことが気分の落ち込みにつながり、うつ状態へと発展すると考えられています。この状態では食欲不振や不眠などを併発することも少なくありません。

アパシー(意欲の低下)に関わる症状

アパシーは、、ギリシャ語のa=失う、pathos=感情・苦悩を組み合わせた言葉で、やる気や自発性が著しく低下した状態を指します。以前は積極的だった人が、何事にも関心を示さなくなったり、自分から何かをしようとしなくなったりします。

アパシーは3つの面で現れます。まず「感情面」では、喜怒哀楽の表現が乏しくなり、表情が無表情になります。「行動面」では、自分から何かを始めることがなくなり、一日中ぼんやりと過ごすようになります。「認識面」では、周囲の出来事や人に対する興味や関心がなくなります。

例えば、以前は新聞を毎日読んでいた人が新聞に見向きもしなくなったり、大好きだった庭いじりをやめてしまったり、家族との会話も減ってしまったりします。テレビを見ていても内容を理解していないことが多く、質問されても「わからない」「どうでもいい」と答えることが多くなります。

こうしたアパシーの症状はうつ状態と非常に似ていると感じる人が多いでしょう。しかし、アパシーとうつは明確に異なります。前述のようにアパシーでは喜怒哀楽がすべて失われるのが特徴です。たとえばうつの場合は何もやる気が起こらない状態を本人は「苦しい」あるいは「悲しい」と感じています。しかし、アパシーはこうした感情すら失っています。うつでは本人も周囲も症状に悩まされるのですが、アパシーでは本人はまったく悩まず、周囲が悩まされます。

一般的にアパシーは前頭側頭型認知症でかなり高頻度に認められると言われていますが、アルツハイマー型認知症でもBPSD として最もよくみられる症状の1つです。また、レビー小体型認知症 でも過半数にアパシーが認められると報告されています。

また、前頭側頭型認知症では、異食・過食という症状も見られることがありますが、ちなみに異食とは食べ物ではないものを口に入れたりすることで、具体例を挙げると石鹸や紙を食べようとしたりする症状です。

この症状は一見すると、アパシーが示す意欲低下とは無縁の考えてしまいますが、症状としてはアパシーの一種に分類されています。これはアパシーが起こる原因と考えられている脳の前頭葉という部分の機能低下に由来する症状だからです。

以上のようにBPSDの症状は多岐にわたりますが、重要な点は認知症の中核症状は進行性のもので治癒や改善を見込むことは難しいのに対し、BPSDは適切な理解と原因の究明、原因への対応により軽減できる可能性があるということです。厚生労働省の調査によると、認知症高齢者の約9割に何らかのBPSDが見られるとされており、介護負担の軽減や患者の生活の質向上のためには、BPSDへの適切な対応が不可欠です。

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