東京商工リサーチは2022年の老人福祉・介護事業倒産は介護保険制度が始まった2000年以降で最多の143件(前年比76.5%増)を記録した、と公表しました。老人福祉・介護事業の倒産は、介護報酬のマイナス改定や人手不足、競争激化などで2016年は100件を上回り、以降も高水準で推移していました。そこにコロナ感染拡大で利用控えが広がり、2020年に過去最多を更新。2021年は、コロナ関連の資金繰り支援策などが奏功し、一転大幅な減少に転じたものの、2022年はその反動増と、コスト上昇分を介護サービス料金に転嫁できず、支援策の縮小、人手不足なども追い打ちをかけた、と同社では分析しています。
コロナ関連倒産 前年11件から63件に急増
2022年の「老人福祉・介護事業」倒産は143件(前年比76.5%増)で、介護保険制度が始まった2000年以降で2020年の118件を上回り最多を更新。負債総額は221億3,800万円(同71.8%増)で、2008年の192億5,500万円を上回り、14年ぶりに負債額を更新しました。倒産急増の背景は、収束の見通しが立たないコロナ禍の影響が大きく、コロナが直接、間接に影響したコロナ倒産は2020年が7件、2021年が11件でしたが、2022年は63件に急増。感染防止の対策コストや利用頻度の減少、在宅勤務の定着による需要減など、新しい生活様式に対応できなかった事業者の倒産が相次ぎました。また、コロナ禍に加え、コスト高の影響も重くのしかかりました。介護報酬は、公定価格のため介護サービス料金の引き上げが難しく、コスト増による息切れ倒産も出始めました。
原因別では、大手との競合や利用控えなどを要因とした販売不振(売上不振)の80件(前年比48.1%増、前年54件)が最多。次いで、大型の連鎖倒産が発生し、他社倒産の余波が38件(同1800.0%増、同2件)と急増しました。事業上の失敗など放漫経営が9件(前年同数)、既往のシワ寄せが7件(前年比12.5%減、前年8件)、設備投資過大が5件(同25.0%増、同4件)で続きました。
従業員数別では、最多は5人未満の85件(前年57件)。次いで、5人以上10人未満が32件(同16件)で、10人未満が8割超(構成比81.8%)と小規模事業者が大半を占めた一方で、50人以上300人未満が4件(前年2件)、20人以上50人未満が9件(同3件)と従業員の多い企業の倒産も増え、2極化もみられました。
大手と小規模事業者の格差が拡大 倒産件数がさらに増加する可能性も
同社では、今後も介護報酬は大幅なプラス改定の可能性が低く、報酬単位の加算が取れない事業者の淘汰は避けられず、自動化や効率化によるコスト削減や人材獲得が優位な大手と、難しい小規模事業者の格差が拡大すると、2023年の介護事業者の倒産は増勢がさらに強まる可能性が高い、と分析しています。
東京商工リサーチ「コロナ禍と物価高で急増 「介護事業者」倒産は過去最多の143件、前年比1.7倍増~ 2022年「老人福祉・介護事業」の倒産状況 ~」
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