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特養の赤字割合 前年度よりも拡大 背景に人件費増~2021年度 特養経営状況調査

赤字経営者

福祉医療機構は、このほど同機構貸付先の特別養護老人ホーム(以下、特養)従来型1756施設(前年度1864施設)、ユニット型3190施設(同3186施設)の2021年度の経営状況調査の結果を公表しました。概況としては2020年度と比較して、従来型、ユニット型ともに利用者1人1日当たりサービス活動収益(利用者単価)は上昇したものの、従事者1人当たり人件費の増加と利用者10人当たり従事者数の増加により人件費率が上昇。この結果、サービス活動増減差額比率は低下し、赤字施設の割合はいずれも拡大しました。今回はこの内容について解説します。

収益増を費用増が上回り、赤字施設割合が拡大

2021年度の利用者単価は従来型が1万2406円(前年度1万2265円)、ユニット型が1万4453円(同1万4565円)で、前年度と比較して従来型で141円、ユニット型で112円上昇しました。同機構では、この理由について「2021年度介護報酬改定によって基本報酬が引き上げられたほか、処遇改善加算(I)の算定率の上昇などが要因と考えられる」と分析しています。調査対象施設の処遇改善加算(I)の算定率は、従来型で92.7%(同92.0%)、ユニット型で95.2%(同94.3%)で、ともにやや上昇しています。また、特養入所の利用率は従来型が93.7%(同94.2%)、ユニット型が93.8%(同94.4%)とともに低下していますが、利用者単価の上昇で定員1人当たりサービス活動収益は従来型が415万8000円、ユニット型が488万3000円となり、それぞれ2万9000円、1万3000円上昇しました。

費用面では、サービス活動収益対人件費率(以下、人件費率)は、従来型が65.9%(同65.4%)ユニット型が63.1%(同62.7%)で、ともに上昇しています。これについては従来型、ユニット型ともに利用者10人当たり従事者数が増加し、かつ従事者1人当たり人件費が上昇したことが原因と考えられます。また、サービス活動収益対経費率(以下、経費率)は水道光熱費の増加などで、従来型が28.3%(同27.8%)、ユニット型が24.7%(同24.5%)といずれも悪化しています。その結果、サービス活動収益対サービス活動増減差額比率(以下、サービス活動増減差額比率)は従来型が1.4%(同2.6%)、ユニット型が4.8%(同5.3%)とそれぞれ1.2ポイント、0.5ポイント低下。

このように収益の増加を費用の増加が上回ったことで、赤字施設割合は従来型が42.0%(同35.2%)、ユニット型が30.5%(同29.0%)といずれも前年度より拡大しました。

このうち2020年度と2021年度で比較可能なデータを有する同一施設(従来型1356施設、ユニット型2610施設)の経営状況の推移を確認すると、ユニット型は全体の傾向と大きな違いはみられませんで。しかし、従来型では定員1人当たりサービス活動収益が微減となっていました。同機構では「全体では横ばいだった延べ利用者数が、同一施設ではやや減少していたことに加え、利用者単価の上昇が微増にとどまったことも影響していると考えられる」と分析しています。また、定員規模別の経営状況では、定員規模が小さい施設ほど人件費率が高く、赤字割合が大きい傾向にあります。実際、従来型・ユニット型ともに、定員規模が小さい施設ほど利用者10人当たり従事者数が多く、定員規模にかかわらず一定数の配置が必要となる事務職員数などが影響していると考えられます。

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黒字の特養に見られる特徴は

黒字施設と赤字施設を比較すると、収益面において利用率が黒字の施設では従来型が94.6%、ユニット型が94.9%、いずれも赤字施設の92.2%、91.1%に比べ、高い数値です。結果としての定員1人当たりサービス活動収益も黒字施設では従来型が423万円、ユニット型が496万7000円と、赤字施設と比べてそれぞれ17万7000円、30万5000円高くなっています。また、人件費率が黒字施設では従来型が62.6%、ユニット型が60.8%に対し、赤字施設ではそれぞれ71.0%、69.7%と、8ポイント以上低いのも特徴です。これは赤字施設の方が▽利用者10人当たり従事者数が多い▽従事者1人当たり人件費も高い、ためと考えられます。さらに赤字施設は定員1人当たりサービス活動収益が低いため、費用の影響がより大きくなり、赤字になりやすい構造を抱えていると言えます。

新規加算の積極的算定が黒字経営のカギに

今回の調査を見ると、特養入所者の要介護度平均は従来型が3.98、ユニット型が3.88と両者にそれほど差はありません。にもかかわらず、黒字施設が赤字施設に比べて利用者単価が高いことから、黒字施設の方が積極的に加算を算定している可能性が考えられます。実際、同調査で分かった各加算の算定率にはその一端が表れています。2021年度改定の柱となっている科学的介護情報システム(LIFE)に関連する加算で見ると、科学的介護推進体制加算は、従来型、ユニット型ともに黒字施設と赤字施設との間で加算Iの算定率にはほぼ差はなかったものの、加算IIの算定施設は従来型、ユニット型とも赤字施設の方が5ポイント程度の低くなっていました(黒字施設で従来型が35.8%、ユニット型が37.9%、赤字施設では従来型が30.3%、ユニット型が32.0%)。

この他にもLIFEへのデータ提出が算定要件となる加算では、口腔衛生管理加算II、褥瘡マネジメント加算Iの算定率が、従来型の黒字施設では2ポイント程度、ユニット型の黒字施設では4~5ポイントも赤字施設よりも高くなっていました。また、ユニット型ではこれ以外にも栄養マネジメント強化加算、排せつ支援加算I、自立支援促進加算が2~3ポイント、個別機能訓練加算IIが6ポイント以上、赤字施設よりも算定率が高いことが分かりました。看取り介護加算Iでも、全ての区分で従来型は2ポイント程度、ユニット型に至っては7~9ポイント、黒字施設の方が赤字施設よりも算定率が高くなっています。ここからはやはり新規加算の積極的算定が黒字経営のカギになることがうかがえます。

さらに調査では2019年度から2021年度までの3年度分の比較可能なデータがある同一施設のうち、3年度連続黒字だった「経営良好グループ」、2019~2020年度は赤字で2021年度に黒字に転じた「経営改善グループ」との比較分析も行っています。この結果、経営良好グループは従来型、ユニット型ともに3年度連続で利用率は約95%を維持しており、利用者単価は2年度連続で上昇しています。これに対して経営改善グループでは、2019年度の利用率は従来型、ユニット型ともに90%強で、その後利用率が上昇し続け、2021年度は94%強に達し、利用者単価も3年度連続で上昇していました。もっとも同機構では経営良好グループについても2021年度は「人件費率および経費率が上昇したことにより、サービス活動増減差額比率は従来型で0.8ポイント、ユニット型で0.6ポイント低下した。黒字を維持しているものの、経営良好グループにとっても2021年度は厳しい経営環境であったことは同様」との分析を示しています。
つまるところ、どの施設にとっても利用率の改善や加算の算定に地道に取り組むことで費用の増加分を上回る増収を獲得していくしかないということを今回の結果は示していると言えそうです。

【関連資料】
・黒字化のカギを握る「人件費率」
・黒字施設が「生産性向上」のためにしていること
・看護師の採用費 下げるために知っておくべきこと
・【介護老人福祉施設向け】看護体制加算「まるわかり」ブック 2022年版

【注目トピックス】
・最新データで見る特別養護老人ホームの人材確保および処遇改善実態(3)不足人員への対応策
・最新データで見る特別養護老人ホームの人材確保および処遇改善実態(4)退職者の状況
・最新データで見る特別養護老人ホームの人材確保および処遇改善実態(5)新卒採用の状況
・最新データで見る特別養護老人ホームの人材確保および処遇改善実態(6)中途採用の状況

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