介護業界を悩ます最大の問題は人手不足と離職率の高さです。この2つに関しては、「卵が先か、ニワトリが先か?」的な論争もあります。さてこの慢性的な問題に対して業界全体で決定打となる解決策を欠く中で、介護職員の7割以上が職場でのコミュニケーションの困難さのために転職を検討したことがあるという衝撃的な調査結果がこのほど明らかになりました。この調査は介護DX事業を行う株式会社ヘルステクノロジーが今年2月にインターネットを通じて行った「介護業務の実務に関する実態調査」で、介護施設に勤める介護スタッフ501人が回答しています。今回はこの結果について解説します。
離職率が高さが「働く環境が適正化されていない」と感じている
調査ではまず「あなたの介護現場では、働く環境が適正化されていると思いますか」と質問しています。その回答は「非常にそう思う」が10.2%、「ややそう思う」が39.7%、「あまりそう思わない」が35.9%、「全くそう思わない」が12.2%との結果になりました。回答区分別では「ややそう思う」が最多となりますが、「そう思う」系と「そう思わない」系、それぞれの合算割合はほぼ半数で拮抗しています。その中で「非常にそう思う」という最も肯定的な回答者割合が1割強に過ぎない点は介護業界関係者にとって頭が痛い結果でしょう。
この「そう思わない」系の回答者に「働く環境が適正化されていると思わない理由を教えてください(複数回答)」と質問した結果は、最多が「スタッフの入れ替わりが激しいから」が51.9%。以下、順に「勤務時間や業務内容にばらつきがあるから」が49.8%、「現場の役割分担が明確化されていないから」が46.5%、「データや根拠に基づく働き方ができていないから」が29.0%、「過剰サービスにより満足にケア業務ができないから」が27.8%などとなりました。筆頭に挙がった理由については、まさに離職率の高さがあります。
72.4%が「職場(上司・同僚・部下)でのコミュニケーションの困難さが理由で、転職を検討」
一方、アンケートでは「介護現場で職場(上司・同僚・部下)でのコミュニケーションの困難さが理由で、転職を検討したことはありますか」との設問があり、これに対する回答は「何度もある」が23.3%、「数回程度ある」が36.3%、「一度だけある」が12.8%、「一度もない」が24.6%でした。実に約4分の3がコミュニケーションの困難さが理由で転職を検討したことがあるという極めて残念な結果です。この点は単にコミュニケーションというより人間関係も含めてと解釈したほうが良いかもしれません。
そのうえでまさに前述の課題の解決法とも言える「効果的に働く上で、お勤め先の会社に求めることを教えてください(複数回答)」との設問に対する回答は、「評価基準や人員配置の見直し」が58.5%、「効果的な働き方やマネジメントに対する理解」が52.7%、「データや根拠に基づく業務管理」が34.7%、「業務やケア基盤にかかわるデータの構築」が30.9%、「適切なデジタル化やICT導入の推進」が26.5%などとなりました。
マネジメント層の現場理解は十分か
この結果を概観する限り、まずは人事制度や効果的な人員配置というソフト面に対する要望が強いことがわかります。この点は裏を返すと、マネジメント層の現場への理解が不十分と解釈することもできます。やや厳しい言い方をすると「マネジメント層が考える古典的な慣習・慣例をベースにした働き方が漫然と行われている」とさえ言うことができるのではないでしょうか?その意味ではまず慣習・慣例をいったん棚上げにしたソフト面の改善策を練ることが求められます。そのうえで現場からの要望の割合に沿うならば、ソフト面だけで改善できない部分をデータ、デジタル化、ICT化で補うという改善策の策定が求められるでしょう。
株式会社ヘルステクノロジー プレスリリース
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